最大の勝者は・・・
とはいえ、現在の安倍さんも盤石かと言えばそうでもない。医療や労働市場の規制緩和といった構造改革は、既得権をひっぱがす作業であり、敵も多いし色々とめんどくさい。最初の頃は「解雇規制を緩和して労働市場を流動化します」なんて歴代総理で初めて明言するなどアクセル全開だった安倍さんも、途中から明らかに飽きてきたように筆者には見える。そこで、もともとやりたかった「安保」に熱を上げ始めたのだろう。
筆者は、このタイミングこそ、民主党が再生する最後の、そして最大のチャンスだったように思う。「総理、今そんなことやってる場合ですか。アベノミクスはどうなんですか。上手くいっているとは言い難いでしょ。それは『第三の矢』である規制緩和を、あなたがサボって全然やってないからです!」と言って、与党はもちろん国会前で騒いでいる万年野党とも一線を画していれば、政権交代可能な受け皿として俄然注目されたはずだ。
でも、彼らはそうはしなかった。かわりに国会前に繰り出してバカ騒ぎをする輪の中に加わってしまった。それも何を勘違いしたのか、カメラの前の方で一番目立つようにバカをやってしまった。その場に居合わせた『市民』にはウケただろうが、その何十倍もいるであろう「民主が最も大事にしなければならないはずの無党派層」は、これで完全にソッポを向くことに決めたはずだ。
恐らく今回の国会ドタバタ騒動に対して、安倍さんは深く深く感謝しているに違いない。結果的に、野党第一党が自ら「政権担当能力がありません」ということを身をもって証明し、ライバルの座から滑り落ちてくれたからだ。
だが、最大の勝者は共産党だろう。共産党の支持層は無党派層の真逆であり、政権担当能力が無いことを誇り、万年野党であることを愛でる不思議な人たちだ。そうした支持層をいたく満足させつつ、民主党というライバルを万年野党界デビューさせることにも成功したのだから。
筆者は、早ければ来(2016)年の参院選に前後する形で、民主党という政党は消滅することになると予想している。選挙が近づいても選挙区でまったく手ごたえが無いことに気づいた民主党議員が焦り、生き残りを模索する中で野党再編の流れを促すことになるためだ。その時までもうしばらく『民主』という名前は耳にするだろうが、2015年の9月19日こそ同党の命日としては相応しいということを最後に述べておきたい。(城繁幸)
【*メモ1】このあたりの調査資料は、『世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか』(菅原琢)に詳細にまとめられており、興味のある読者には一読をおススメする。