「アベノミクス」の成長戦略の一つに、働き方改革というものがありますね。一昔前に比べて、かなりの企業が多様な労働形態をとるようになってきましたが、やはり日本人には週休2日、土日休みが馴染み深いですね。これから日本は、よりグローバルな社会になっていくでしょう。そうなった時に、就業時間より効率が重視される、海外のような自由な労働形態が増えていくのではないかと思っています。
さて今回は、今、話題になっている「変形労働制」に関してご説明していきます。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)
固定給は今まで通りとの事だが・・・
先日、大手アパレルメーカーが導入を発表したことで話題になっていた、「週休3日制」について相談させてください。私の会社は閑散期と繁忙期の差が激しく、ニュースを見た上司が「うちの会社でも是非取り入れよう!」と言い出しました。
確かに週末に仕事が偏る事が有り、週の初めは暇な日が多く、休みにした方がいいような日もあります。しかし、私は夫との休日の兼ね合いもあり、現在の週5日8時間ずつの労働がベストだと思っています。導入した場合、1週間の総勤務時間は変わりませんが、週3休になり、繁忙期には金~日を中心に週4日間10時間ずつ働かなくてはいけなくなるそうです。
社員は家庭のある人が大多数なので、制度に反対しています。入社の際は、8時間労働の取り決めで入社しています。また、子供の保育園や親の介護を頼んでいる人は、預ける時間が長くなり、別途出費がかかってしまいます。
固定給に関してはこれまで通りとの事ですが、これまで忙しくて8時間以上働いたときは残業代が出ていたのですが、新制度になれば、10時間働いても残業代は出ないのでしょうか。また、会社が導入すると言い出した場合、社員は従わなければいけないのか、も気になります。(実際の事例を一部変更しています)
弁護士解説 「変形労働時間制」と「導入の条件」
ずっと週2休みだったにもかかわらず、時期によって休日数が異なる制度に変更されると生活リズムがくずれてしまいますよね。最近何かと話題の「週休3日制」ですが、この制度は「変形労働時間制」という法律上の制度を利用したものとなります。
まず、労働基準法32条では、会社は1日に8時間、また1週間に40時間を超えて労働者を働かせてはいけないと決められています。その時間を超えて労働者が働いた場合には、残業代を支払わなければなりません。
変形労働時間制とは、その規定の例外であり、一定の範囲を決め、週あたりの平均労働時間が週の法定労働時間の枠内に収まっていれば、1週または1日の法定労働時間の規制を受けないことを認める制度です。たとえば、一定の範囲を4週間とした場合、月末の週の所定労働時間を45時間と設定しても、それ以外の週の労働時間を短くすることにより、その月における週あたりの平均労働時間を40時間以内に収めれば、所定労働時間が45時間の週を設定することが可能になり、労働時間が40時間を超えるときでも労基法32条1項には違反しないものとして扱われます。
そして、この変形労働時間制には、(1)1か月単位の変形制、(2)1年単位の変形制、(3)1週間単位の非定型的変形制という3つの種類がありますが、実務的には多く使われているのは(1)、(2)となります。
今回のご相談者様の会社では、変形労働時間制を会社が導入しようとしているということですが、変形労働時間制を導入するには、
(1)1か月単位の変形制の場合、就業規則か労使協定により定めるか、また、(2)1年単位の変形制の場合、労使協定により導入する必要があります。
もし、会社側が、(1)または(2)の手続きを行い、導入してしまった場合は、残念ながら労働者としては、それに従わなければならないことになります。社員に反対意見が多い場合、この「協定」の話し合いの段階で、労働者の代表が、会社と十分に意見を交わす必要があります。
育児・介護の時間確保に、会社は「配慮をしなければならない」
また、これまでは、1日8時間以上働いた場合には残業代が支払われていたご相談者様にとってみると、変形労働時間制が導入されてしまった場合、1日8時間以上働いても残業代が支払われないケースが発生してきてしまいますので、残業代が減ってしまう可能性も高いですね。
一方で、変形労働時間制の下で働く労働者に対してでも、労働者が育児や介護を行っている場合には、会社は、労働者が育児等に必要な時間を確保できるような配慮をしなければならないとされています。ですので、ご相談者様の意見は、導入された場合でも、しっかりと上司に伝えましょう。
変形労働時間制は、閑散期と繁忙期の差が激しい業界などの場合、柔軟な対応ができたり、残業代を抑えられるというメリットが会社にはありますが、導入するための手続きが難しかったり、勤怠管理が大変になったりするというデメリットもありますので、会社側にはしっかりと検討をしてほしいものですね。
ポイント2点
●週3休は、変形労働時間制という法律上の制度を利用したもの。制度を利用すると、法定労働時間の規制を受けず、1日8時間や1週間40時間の制限以上に働く(働かせる)事が可能。
●変形労働時間制を導入するには、(1)1か月単位の変形制の場合、就業規則か労使協定により定めるか、また、(2)1年単位の変形制の場合、労使協定により導入する必要がある。