フィリピンで日本人が不法就労の疑い 「60人逮捕」の衝撃と余波

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   フィリピンで、日本人60人が不法労働で逮捕されるという驚愕の事件がおきた。

   共同通信(2015年9月12日配信)によれば、

「フィリピン国家捜査局(NBI)は11日、必要な労働許可を得ずに就労していたとして、同国中部セブの『ジャパン・インタートレード・コールセンター(JICC)』社で勤務していた日本人約60人を、不法就労の疑いで逮捕した。
   NBIなどによると、JICC社は外資系企業などが集まるセブ中心部の『ITパーク』地区に事務所を構え、電話対応代行業務などをしている。関係者によると、同社で働いていた日本人は半年間の実務研修中のため、就業許可は不要だと主張しているという」

   この事件、なにがインパクトがあるかというと、日本人の不法労働につきる。フィリピンからの不法労働者が、日本で捕まるという事件は見聞きするが、日本人がフィリピンで不法労働、しかも60人まとめてというのは、聞き及んだことがない。

授業料や宿泊費、食費も無料。そのかわり無償労働

フィリピンで何が?(写真はイメージ)
フィリピンで何が?(写真はイメージ)

   コールセンターといえば低賃金の職種の代表で、日本国内ですら低賃金だというのに、フィリピンにいってコールセンターで働くとなれば、いったいどんな待遇なのだろうか?

   一瞬、日本の貧困層がフィリピンに逆輸出されたのかと勘ぐった。

   しかし、背景には別の構図があるようだ。どうも無償労働のインターンが関係しているのではないか、という関係者の指摘がある。

   ITパークには、コールセンター以外にも、多くの英会話学校が入居している。フィリピン留学が知られるようになって多くの日本人が学びにきているが、中には、生徒と労働のバーター取引をしているところもあるようなのだ。

   つまり、英会話学校に通うという立て付けにして、英語の授業を提供する。そして海外インターンという名目で、提携先(コールセンターなど)での無償労働を斡旋する。

   記事中に、「半年間の実務研修中のため、就業許可は不要」という主張があるが、つまりそういうことを指しているとみられる。

   もっとも、こうした仕組み自体が問題なのか、今回の逮捕事件が特殊な例なのかは分からない。

   実際にフィリピンの語学学校サイトを検索してみると、このようなプログラムを提供している記述が見つかった。あるプログラムでは、1日4時間のマンツーマン英語授業が受けられて授業料のほか、宿泊費や、食費も無料。そのかわり、インターンシップ先で無償労働がバーターになっている。労働賃金分と、学費など諸費用が相殺されるという説明もある。

今後の進展に注目

   今回、この手のバータープログラムで語学学校へ留学している人に取材することができた。

「私のいる語学学校ではかなりの数のインターンシップ生がいます。空港の出迎えほか、語学学校の運営の手伝いを行うこととバーターで授業が無料になります」

   では、彼は、労働許可を取っているのだろうか?

「(語学学校内の)手伝いであれば、(留学ビザで)問題ないと聞いています。コールセンターの件は、がっつり仕事をしているので、わかりません」

   こうしたバーターの生徒がいる語学学校は、結構あるらしく、語学学校の経営者にとって欠かせない助っ人になっているとのこと。

   今後、この事件がどのように進展するかは分からないが、注目してフォローして行きたく思う。

   私は、かねてから、フィリピン留学と、その後の実務労働(海外インターン)を推奨してきた。留学生からみると、このような事件をうけて、海外インターンが一律に危ないと思われて委縮することがあると残念だ。

   今回の事件が、インターンの無償労働そのものを問題視したのかどうかは、まだ分からない。また、インターンの無償労働が、違法か違法でないか、ビザの手続きをする必要があるかないかは、国によって法律が違うため、一律にこういうバーター留学を批判することは間違いだろう。(大石哲之)

大石哲之(おおいし・てつゆき)
作家、コンサルタント。1975年東京生まれ、慶応大学卒業後、アクセンチュアを経てネットベンチャーの創業後、現職。株式会社ティンバーラインパートナーズ代表取締役、日本デジタルマネー協会理事、ほか複数の事業に関わる。作家として「コンサル一年目に学ぶこと」「ノマド化する時代」など、著書多数。ビジネス基礎分野のほか、グローバル化と個人の関係や、デジタルマネーと社会改革などの分野で論説を書いている。ベトナム在住。ブログ「大石哲之のノマド研究所」。ツイッター @tyk97
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