「私のやり方に不満なら会社を辞めればいい」
Hくんに悪気はなく、単純に車に興味があって冗談まじりに尋ねたことだったのですが、社長の顔色はみるみる変わってしまいました。
「誰に聞いたんだ、その話。誰なのか言え。言わないとお前はクビだぞ!」
Hくんは、あまりに突然の社長の怒りにびっくりして、仕事帰りにベテラン社員のSさんと飲みに行った席で聞いた話だったこと、Sさんはたまたま仕事で会社の資産台帳を見て、高級車2台が会社の資産として計上されていることを知ったこと、を告げてしまいました。
社長は怒りました。自分がまるで会社の経費を使って高級車を買い漁っている、と言われたような気がしたのでしょう。実際に車好きなT社長は、節税目的もあるのですが、痛いところを突かれた感もあったようです。
しかし、社長は当時者から事情を聞くこともなく、いきなり全社員宛のメールで、「社員同士の酒の席で、経営にかかわる重要情報の漏えいがあった。該当の者は減俸に処する。今後同様のことが起きた場合には、懲戒解雇含めた処分をとる。社員同士の飲酒の席で、会社の話題を出すことは一切禁止する」という、かなり強引な内容の通知をしたのです。
総務部長から突然、減俸辞令を受け取ったSさんは、処分に納得がいかずほどなく退職。その上司で先代の右腕でもあった重鎮の設計部長も、管理責任を問われて取締役を降格させられました。また事の発端であるHくんは、これらの処分にいたたまれず、転職先を見つけて3か月後に退職しました。
私がこの話を聞いたのは、Tさんが退職した後のことでした。社内の尋常ならざるムードを察した私は、部長の降格を取り消し、社長車が会社所有になっている理由を社長の口から説明した上で、非公表情報の取り扱いや飲み会における話題のあり方について、社員の意見も聞きながら話し合いをするべきと進言しましたが、社長はこれを一蹴しました。
「いらぬ勘ぐりをされるような情報開示はしたくない。それと、社員同士の飲酒は諸悪の根源だ。私のやり方に不満なら会社を辞めればいい」。どこまでも強気な社長は、さらに意見した私に対しても「しばらくうちへの出入りを控えて欲しい」と排除宣告したのです。