「グーグルの20%ルール」の応用
自身のスケジュール管理に問題意識を覚えた時、H社長の頭をよぎったのが、「グーグルの20%ルール」であったと言います。「グーグルの20%ルール」とは、グーグル社では社員は社内で過ごす時間の20%を、自分が担当している業務以外の分野に使うことが義務づけられている、というものです。これは、単に社員に自由な時間を20%与えると言うのではなく、その20%の時間から既存ビジネスモデルや製品の破壊すなわち革新的イノベーションの誕生を期待しているのだと言われています。
8割のパワーで「持続的イノベーションを開発」し、2割のパワーで「革新的イノベーションを創造」する―。H社長はグーグルの例を引きながら「社内外の人たちとのフリー・ディスカッションを通じて、20%の時間を自分の新たなイノベーションに資するものへと自戒の念を込めて変えていきたいのだ」と、力強く語ってくれました。
『経営の神様』P・Fドラッカーも、「『人、物、金』といった経営資源と異なり、時間は『借りたり、雇ったり、買ったり』できない特異で希少な経営資源である」(『経営者の条件』より)と説いています。自らの時間の管理を基本、他人任せにしてしまうリスクには気が付いていない会社経営者が世にあまりに多いことを、はからずもH社長のお話から改めて私も気が付かされた次第です。
「スケジュールを秘書任せにすることで僕は、自分で管理する自分の時間を持っていたなら耳に入っていたかもしれない、社内のスタッフや外部の皆さんからの刺激的なお話やアイデアの起点となるような情報を聞き逃していたのじゃないかと思うのです。新たにつくる20%の時間は、社内を歩き回っての社員とのフリー・ディスカッションや、外部の皆さんとのフリー・トークにどんどん使っていきたいので、よろしくお願いします」
どんな時にも主体的であるべき組織のリーダーが、時間という限りある最も重要な経営資源に対して主体性を発揮できていないのなら、それは組織の沈滞につながる由々しき問題です。H社長の気づきは、企業トップと言う繁忙な立場ゆえ、ややもすると盲点になりがちな時間に関する接し方の大切さを示唆してくれたと思います。そしてこれは同時に企業経営者だけに当てはまることではなく、すべてのビジネスパーソンが心すべき事なのではないでしょうか。
P・Fドラッカーは、こうも言っています。
「時間に関する愛情ある配慮ほど、成果をあげている人を際立たせるものはない」
実に言い得て妙な指摘であると思います。(大関暁夫)