知り合いのコンサルティング会社が実施したアンケート調査に、おもしろい結果が出ていたので紹介します。
アンケート調査は、大手から中小までの企業勤務者約1000人に向けられたものです。私が注目したのは、「あなたの会社に変化は必要ですか」という質問に対する回答です。99%の人が「変化が必要」と答えていました。そして、「必要」と答えた人に対する「最も変化が必要なモノは何ですか?」という問いに対する答えは、「組織風土」という回答が約3割で最も多かったのです。
変化は必要だが、変化すべきは自分以外
我々の仕事はたいていの場合、様々な部分に変化を起こすことで組織に新たな刺激を与え、改善方向に向けて少しずつ変えていくというやり方を取ります。ところが、この変化に対しては必ずや抵抗勢力が現れるのです。先の調査で分かるように、ほとんどの社員が変化は必要と思っているにも関わらず、です。
なぜこんなことが起きるのでしょう。あるモノの本で読んだことがありますが、人間は常にあらゆる事象に関して「変化は好ましい」と思っていながら、同時に「(変化するのは)自分以外」とも無意識に感じているそうです。こういった人間の習性から、変化を求めながらも、自分に変化を求められると抵抗勢力に変わってしまう。変化を起こすと言うことは、本当に難しいことなのです。
ましてや先の回答で一番多い組織風土を変化させるとなると、これはもう至難の業であると言っていいでしょう。なぜならば、組織風土は中小企業の場合、創業者やオーナー経営者の経営方針や経営姿勢に依る部分が大きいからで、これを変えることはなかなか容易ではないのです。
数年前のことです。中堅産業機械商社のY社で、創業社長が会長に退き2代目T氏が社長のイスに座わりました。ほどなくT社長から旧知の私に、「会長が長年やってきた独裁管理のせいで社員に前向きな姿勢が感じられない。そのムードを刷新したいので手伝って欲しい」という相談がありました。彼自身が長年創業者の下で働いてきて、「他人頼みでやる気を感じない風土は、自分がトップに立ったら必ず変える」と思っていたのだそうです。
社長と約3か月じっくりと話し合って、組織の決裁方法や権限委譲とそれに伴う人事評価制度改訂案を起案し細部を詰めていく段階で、社長の姿勢に変化が現れました。はじめはあれもこれも変えようと威勢のよかった社長ですが、私が作った具体案は打ち合わせを重ねるたびに修正を繰り返し、最終的には決裁方法、権限委譲、共に微調整レベルにまで引き戻しされてしまったのです。
上に立つ社長が変わらないなら社員は変わらない
「これでは、社長が望んでいた組織風土の変革には遠く及びませんよ」。私のそんな問いかけに彼は、「僕は社内のムードを変えたいとは言ったけど、変えなくちゃいけないのは社員であって自分じゃない」と答えました。なんと、組織風土変革の抵抗勢力は社員ではなく社長自身だったのです。
社長はトップのイスに座って3か月、先代が作ったそのイスの座り心地の良さに安住してしまったのでしょうか。結局、社長の「変わるべきは社員」という姿勢は覆らず、改革は制度整備に留まり中途半端なものに終わってしまいました。
実は冒頭の調査でおもしろい結果が出たと言ったのは、同じ質問を100人の経営者にした調査が併記されていたからです。「あなたの会社に変化は必要ですか」という質問に対する回答は、同じように99%の経営者が「変化が必要」と答えたのですが、「最も変化が必要なモノは何ですか?」という問いに対する一番多かった答えは、「組織風土」ではなく「社員」だったのです。私はこの結果を見て、T社長の言動を思い出したと言うわけなのです。
社員も社長も、今の自社に「変化は必要」と思っていながら、社員は「組織風土=経営姿勢=社長」に変化を求め、片や社長は「社員」に変化を求めている。共に「変化は好ましい」と感じていながら、モノの本にあった通り「自分以外」とも無意識に感じているわけです。しかし、このままどちらも動かないままなら、「変化」は永久に起きないでしょう。結論は簡単です。上に立つ社長が変わらないなら社員は変わらない、組織をリードする社長が変わらないなら風土は変わらないのです。
Y社には未だに会長時代と同じ、社内には「他人頼みでやる気を感じない」空気が脈々と流れ、社長は「できることなら社員を全員取り変えたい」とぼやいていると聞きます。世に、社内に「変化」を求めど「変わらない」とお悩みの社長は多いのですが、ご自身が「変化」を拒否していないか、まずは自問自答いただくことがお悩み解消の近道かもしれません。(大関暁夫)