ここ数年、「フェミニストって怖そう」とか、「女性差別なんて実感したことがないし、『女の権利』を主張する女性には共感できない」という若い女性が増えているといいます。今回は、そんな若い世代にぜひ、見て欲しいドキュメンタリー映画のお話です。タイトルはズバリ、「何を怖れる フェミニズムを生きた女たち」(松井久子監督、2014年初公開)。1960年代に始まるウーマン・リブ(女性解放運動)をリードしてきた女性たち15人を、「運動とは距離をおいていた」女性監督が取材し、ひとつの歴史としてまとめた作品です。
先日筆者は、松井監督のトークイベントと、上映会に参加してきました。会場に現れた監督は、華やかな出で立ち。モードでシックなファッションに、耳元には大きなイヤリングが印象的です。シングルマザーとして一人息子を育てながら、番組制作会社を立ち上げ、いわゆる「男社会」で働いてきた松井監督。これまで「女性運動」とは、あまり関わらないようにしていたといいます。
「モテない女」「ヒステリー」と呼ばれたくなかった
映画のインタビューを文字起こしした書籍(『何を恐れる フェミニズムを生きた女たち』岩波書店)の前書きでは、監督が、これまで「モテない女」「ヒステリー」などと呼ばれたくなくて、女性運動とは疎遠だったと書かれています。「男を敵に回す女たち」への誤解と偏見を持っていた、とも。
そんな彼女に、現在60~80代を迎えた「ウーマン・リブ」の先駆者たちが、「私たちの生きてきた記録を、若い人たちのためにも残して欲しい」と、ドキュメンタリーの制作を依頼。当初は迷いがあったそうですが、彼女たちの人生を取材するうち、ウーマン・リブの女性たちが、世間の目を恐れることなく「差別」と闘ってきたということ、リブの女性も監督自身も、社会で何となく感じてきた不遇感を共有していたのだ、と実感されていったそうです。
確かに現代は、昔のように「就活で女子学生は門前払い」とか、「結婚したら退職を強要される」などの事態は、随分と減りました。が、セクハラやマタハラ、非正規雇用の女性が陥りがちな貧困など、生きづらさを感じる女性がいることも事実です。声を挙げることを「恐れている」女性たちは、運動の開始から40年以上経った今でも、少なくないのではないでしょうか。
「恐れることなんてない」
映画の中で、ウーマン・リブの旗手たちは、「男性が憎い」という言葉を使いませんでした。とにかく「目の前の生きづらさを解消するため、一生懸命にやってきた」という印象。女として自由に生きたいという、切実な思いがあったことが分かります。
上映会の後、筆者は松井監督に対し、「今でも、女としての『生きづらさ』を感じて落ち込んでしまうことがあるんです」と、人生相談のような質問をしてしまったのですが、彼女は優しく、次のように答えてくれました。
「私も、それは同じですよ。男社会の中で、『これを言ったら嫌われるんじゃないか、不利になるんじゃないか』と、常に気にしながら生きてきた。でも、この映画のタイトルのように、『何を恐れる』の精神でやっていけば、きっと大丈夫。勇気を持って、あなたの信じる道を進んでいって下さいね」
キャリア女性としての大先輩である松井監督の言葉には、胸を打たれました。もしかしたら、現代の迷える女子たちは、女性運動の「過去」を知ることで「未来」を前向きに考えられるようになるかもしれない。そんな気持ちにもなりました。
「かやさん、またね」と言って、颯爽と会場を後にした松井監督。その後ろ姿を見送りつつ、これからも「何を恐れる」精神で頑張ろう、と思えたのです。「ドキュメンタリー映画 何を怖れる フェミニズムを生きた女たち」、迷える女子、そして男子にもお勧めです。(北条かや)