営業は「教える」ものではない 「背中で見せる」の重要性

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   前回に引き続き営業担当育成話です。

   つい先週の事ですが、弊社運営の飲食店に大手飲料メーカーの名刺を持った営業マンが、飛び込み営業にやってきました。若手の1~2年生でしょうか。「飲料のご案内をして回っています。ドリンクメニューを増やすお考えはありませんか」。応対したのは店長ですが、即答で「特にありません」。ものの1、2分もしないうちにジ・エンドでした。

   店のカウンターに座ってこのやりとりを見ていた私は、窓越しに別の光景を見つけました。飛び込み営業をする彼の後ろ、店長からは死角の位置に中年男性が一人立っているのです。「上司?」と私は思いました。緊張顔の若手営業マンくんのフォローに出るでもなくやり取りをじっと聞き、断られるとそのまま二人で何やら話しながら去って行きました。きっと1件1件、若手くんのやり取りを見て、次への道々個別指導をしているのでしょう。

営業主力の部長と若手が同行

営業チーム育成のポイントとは
営業チーム育成のポイントとは

   この光景を見て思い出したのが、数年前の話です。精密機器部品製造のS社は、トップセールスによる大手T社への売込成功をキッカケとして業績を急激に伸ばしていました。しかし業績は伸びてはいても、会うたびにT社長の口を突いて出る口ぐせは「営業担当が育たない」でした。

   大手T社の仕事は「たまたまハマった」のだそうで、製品のモデルチェンジがあれば受注が続くものかも分からないと。T社の仕事が取れているここ1、2年の間に、「T社の下請けをしているS社」の看板で主要取引先企業のシェアを伸ばしつつ業界大手の新規取引も総なめにして、業績を伸ばしていきたいというのが社長の当時の目論見でした。そのためには、稼げる営業担当の育成が急務という訳だったのです。

   そのような一見好調、実は悩ましい状況下にあって、社長の頼みの綱は創業当時から二人三脚でやってきたY営業部長でした。

「当社の営業実績は、私自身のトップ営業で約半分。残りのうち約8割はY部長によるもの。4人いる他の営業担当は本当に育たない。どうしたものか」

   雑談的な相談でもあり、詳しく現場を見させていただいていた訳ではないので断言までは避けましたが、その時直感的に浮かんだ私の提案は、現在プレイイングマネージャーのY部長のプレイヤー任務を外して担当者教育と管理に専念させてはどうか、というものでした。

   しかし、社長の答えは即答で「無理」。社長に次ぐ稼ぎ頭をプレイヤーから退かせたら実績がガタ落ちになって会社がおかしくなってしまう、という訳です。それも確かに分からなくはありません。人件費コストとの見合いや、人材不足などを理由に、管理者を管理・人材育成に専念させられず若手の教育係がいない、というケースは中小企業ではよく聞く話です。かと言って、大手企業と違ってマニュアルもなく研修制度もない中小企業で、「勝手にやって成果を上げてこい」ではとても人材が育つとは思えないのです。

   そこで社長の言い分も斟酌した上で私が次に出した提案は、「せめてY部長を若手と同行訪問させて欲しい」というものでした。T社長はその効果に疑問を投げかけながらも、「やれる範囲でやらせる」と渋々了解したのでした。

当初の「同行訪問」がうまくいかなかった理由

   3か月ほどして、再び社長に会うと開口一番こう言いました。

「大関さんの言う通りに、部長に担当者との同行訪問をやらせてみたもののサッパリだよ。同行訪問に効果はない。時間の無駄だよ。Y部長には、以前のように通常の営業活動に専念してもらおうと思う」

   ちょっと待って下さいよ。短期間で劇的な効果が出るか否かは別にしても、全く効果がないとは思えなかった私は、同行訪問が中止になる前にY部長がどのようなやり方をしているのか聞かせてもらうことにしました。

   効果が出ない原因はすぐに分かりました。部長は担当者の訪問先に同行して、そのやり取りを見てアドバイスをしているというのです。冒頭の飲料メーカーの上司と同じやり方ですが、これではダメなのです。同行訪問最大の目的は、動物学で言うところの「刷り込み」です。雛鳥が親鳥の歩き方や泳ぎ方を見よう見まねで身につけるあれです。私の説明も悪かったのですが、私が意図した同行訪問は、部長の担当先でも担当者の訪問先でもかまわないので、とにかく部長の営業スタイルを見せて担当に学ばせることだったのです。

「言われてみれば確かにそうでした。私が当社の営業のやり方を身につけたのも、創業当初社長と一緒に新規開拓であちこち回っている時に、社長のお客様とのやり取りから学んだものだったわけですからね」

   Y部長から社長にお願いしてもらい、やり方を変えてもうしばらく同行訪問を続けることになりました。半年ほどで成果は目に見えて現れたようです。その後、部長は徐々に自身の担当先を担当者に移し順調に会社の規模も拡大して、今では管理・指導に専念する取締役営業部長におさまっています。

   営業は教えるものではなく、見せるもの。覚えておいて損のない営業チーム育成のポイントなのです。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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