「派閥活動をしたものは厳罰に処す」宣言の意味
この変化により全社トップがどのグループから勝ち上がるかで、社内の風向きが完全に変わってしまうことになったのだといいます。そんな中で、トップ主導による事業部単位での派閥争い繰り広げられ、各グループはグループの威信を賭けて何としてもトップの要求に応える無理を押し通す状況を生んでいったのです。
「私は、後任に社長の座を譲ると決めた段階で社内に『派閥活動をしたものは厳罰に処す』との宣言をしました。サル山のサルと一緒で、サラリーマン同士の派閥抗争は遅かれ早かれ必ず起きます。ひとたび起きれば、本来外に向けられるべき企業エネルギーが内向きに発せられることになり、組織が不要な疲弊をきたし、時には経営を危うくすることにもなるのです。私は多くの取引先企業を見てきてそう思ったのです」
その昔、私が新聞記者をしていた時代に、一代で上場企業を作り上げたオーナー創業者がオーナー家以外の人材に社長の座を譲った際のインタビューに応えて、こう話してくれたことを思い出しました。実際にその後私の周りでも、オーナーが血縁以外にトップの座を譲った後に社内で派閥抗争が起き、有能な人材の流失につながるなどして事業に支障をきたした例をいくつか見てきました。オーナー社長がオーナー家以外の後継にトップを譲る際の、意外な盲点であるなと思ったものです。
派閥抗争が嵩じてトップの行き過ぎた目標達成命令になり、会社全体が次第にブラックな事案に手を染めていくことなった――。オーナーと言う軸がある組織とそうでない組織では、組織の力学も自ずと異なってくるのです。ワンマン独裁がいいのか、合議制的ピラミッドがいいのか、一概にその判断は難しく、それぞれの長所短所は様々にあるでしょう。東芝問題ははからずも、人が集まりその中から選ばれた人が動かす合議制ピラミッド組織マネジメントの大きな落とし穴を、私たちに示唆してくれたのではないでしょうか。(大関暁夫)