「複数内定」からどの企業を選ぶ? 大学に相談できない学生が増えた理由

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   今日のテーマは「W内定」です。前回44回と41回ではオワハラについて、企業側の視点をお伝えしました。

   今回はその逆、学生側の視点からお伝えします。

   本稿配信時点(2015年8月3日)で、最終選考を終わらせているか、進行中の企業が続出。

   まあ、経団連のスケジュール通りなら8月1日が選考開始です。それが1~3日は最終選考になる、という時点でいかに就活後ろ倒しが大嘘か、分かろうと言うものです。

「キャリアセンターに怒られないか、心配」

どの会社にしようかな・・・
どの会社にしようかな・・・

   今年の16卒学生は例年以上に売り手市場。となると、当然ながら複数の内定先を持っています。

   ここで、例年なら複数の内定先についてどうするか、学校のキャリアセンター・就職課に相談に行くところ。

   それが今年は、どの大学でも報告に行かない学生が増えています。理由は学生側の恐れ。

「いや、複数の内定先があると、キャリアセンターに怒られないか、心配なので」

実際、そういう指導をする大学やカウンセラーもいます。

「いくら複数の内定先があっても、それは相手企業に失礼です。複数内定はできるだけ避けるように指導しています」

とは言え、学生も人情としては、

「大手企業に行きたいですし、いくらダメと言われても、複数内定は確保しておかないと心配です」

かくて、複数内定でどの企業にしようか、悩む学生が今年は例年以上に増えています。

あるW内定の末路

   内定先が複数あれば、どこにしようか悩むのが人情というものです。

   私の知る限り、これまでで最も悲惨な例は、北海道拓殖銀行と山一證券のW内定。この2社の固有名詞を出した時点で30代半ばないし、40代以上の読者にはオチが読めるでしょう。

   私がライターになる前、どころか、高校生のころ(ちょうどバブル景気が終わったあたり)、ニュースを見ていると、北海道拓殖銀行の入行式の様子が流れてきました。私の地元、北海道では最大手、かつ、当時は都市銀行13行の一角。男性行員がインタビューで

「ここと山一證券と内定を貰い、どちらにしようか迷いましたが、ここにしました。北海道経済のために頑張ります」

確か、こんな話をしました。それから6年後、1998年に破たん、北洋銀行に営業譲渡してしまいます(破たんの発表は1997年)。

   では、もう一方の山一證券は、と言えば北海道拓殖銀行の破たん発表の翌週、自主廃業を発表。

   野澤正平社長(当時)の「みんな私らが悪いんであって、社員は悪くありません!」という号泣会見はどこぞの県議と違い、胸を打つものでした。

   この号泣会見を見ながら、私は、あのときの拓銀の新入行員はどっちに転んでもダメだった、と思いました。W内定でどっちに転んでも破たん(自主廃業)をしたあの新入行員も今頃は40代後半、どこでどうしているのか・・・。

ブラックかどうかは本人次第

   W内定の学生や、就活中の学生から、

「石渡さんならどの企業を選びますか?」
「石渡さんが注目する企業や業界はどこですか?」

などと聞かれます。

「そんなものを当てにしちゃダメ」

が、私の答え。

   いくら就職取材が長いとは言え、私の視点はあくまでも私の視点であり、学生の視点とは異なります。

   ついでに言えば、趣味・嗜好・働き方への考え方なども異なります。私が是とする働き方(または、いいなと思う企業)が、学生にも通じるかどうかは別問題です。

   以前、毎日新聞社が自社CMで、自虐ネタを流していました。

「その会社には休日がない。その会社は、決してきれいとは言えない。その会社には、会社に住んでいる人がいる。その会社には、おしゃれな人間が少ない・・・」

最後はいいオチになって、マスコミ志望の学生をぐっと引き寄せる好CMでした。

   土日しっかり休める仕事か、とはお世辞にも言えない点をあえて触れているところがミソ。ま、それは出版業界や私のようなフリーランスにも言えることです(たとえば、この草稿を書いているのが日曜深夜・・・)。

   そうした働き方を私は是とするからこそ、長く働いているわけです。しかし、土日はしっかり休んで定時で仕事を終わらせたい、という人であれば、そんな職場・仕事はとんでもないブラック企業、ブラック労働ということになります。

企業の規模、勢いだけでの判断はNG?

   では、企業の規模、勢い、将来性などで判断すればいいのでしょうか?

   それも違うでしょう。そもそも、企業の将来性を確実にわかるのであれば、私はライターなど廃業して株式投資家になっています。

   分かりやすい例として、ミクシィを挙げましょう。

   1999年、有限会社イー・マキューリーとして設立、翌2000年に株式会社化した同社は、2006年に現社名に改称します。

   が、おそらく2000年から2003年ごろにかけては、よくあるITベンチャー企業の中の一社に過ぎません。そこに入社すると言っても、大学の友人からは「どこだ、そこ?知らんぞ」と言われたことでしょう。

   2004年にmixiの運営を開始、2005年から2007年にかけて爆発的に利用者が増えます。2005年に100万ID、2006年には800万ID、2007年9月には1400万IDに到達します。

   2006年には東証マザーズに上場、ビジネス雑誌などにも注目されます。おそらく、このあたりではミクシィは人気企業となっていました。

   ところが2008年ごろから勢いが止まります。さらにSNSでは、TwitterやFacebook、LINEが登場し、そちらが主流になっていきます。2009年から2012年ごろにかけては、学生の間では「ミクシィ?そういや昔やっていたよね、でも将来性はない、オワコンでしょ」という扱い。

   ところが、ミクシィは2013年、スマホ向けゲーム「モンスターストライク」の提供を開始。半年で利用者は500万人を突破します。こうなると、学生の間では「ミクシィ、将来性ありそう」。

   ここまで乱高下する企業も珍しいでしょう。が、それくらい、先行きは読めないのです。

学生を人と見る、正直に話す

   では、何を基準に選べばいいのでしょうか。

   取材を進めると、圧倒的に多かったのが「学生をノルマでなく人と見ていること」「正直に話すこと」「企業の雰囲気」の3点でした。

「同じ大手でも、内定学生をノルマの対象としか見ていない対応をしている企業があった。かなり嫌な思いをして今の社に。あのときの選択は間違えていなかった」
「2社から内定を貰った。1社は、はっきりと内定と言ってくれたが、もう1社は『8月3日の最終選考に来てほしい。そこではっきりさせる』としか言わない。どう考えても内定としか思えないので、『内定と思っていいか?』と聞くと、『来てほしい。それで察してほしい』としか言わない。いくらなんでもそんなごまかし方はひどい。あとで『内定を出した覚えはない』と言い逃れされそうな気もしたし、はっきり言ってくれる方を選んだ。規模や条件などを考えれば、口を濁した社の方が良かったけど、あのごまかし方はひどい」

   一番最後の例は、似たような話だと7月中の面接は面接ではなく面談といい張るという社も多数あります。

   面接などでは絶対NGの社風・雰囲気も、内定先選択ではバカにできません。と言っても、採用担当者だけを見て判断すると結構外れます。社によってはエース級の人材を持ってきているからです。

   それよりも支店や営業所、工場などを見学したり、内定後でもOB訪問を依頼して、話を聞いたりすると、判断材料になります。

   内定先選択は恋愛と同じ、最後は本人の気持ち次第。ただ、今年の就活はその気持ちひとつで泣き笑いする企業が分かれ、大量の補充選考が秋以降に出そうです。(石渡嶺司)

石渡嶺司(いしわたり・れいじ)
1975年生まれ。東洋大学社会学部卒業。2003年からライター・大学ジャーナリストとして活動、現在に至る。大学のオープンキャンパスには「高校の進路の関係者」、就職・採用関連では「報道関係者」と言い張り出没、小ネタを拾うのが趣味兼仕事。主な著書に『就活のバカヤロー』『就活のコノヤロー』(光文社)、『300円就活 面接編』(角川書店)など多数。
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