オーナー経営者が真摯に受け止めるべき一言
昨今世間を騒がせるブラック企業化の流れは、まさしく氏の考え方の真逆を行くものなのかもしれません。経営者が成果や収益に固執するあまりに、社員の「おもしろおかしく」はもとより収益至上主義的労働力の搾取により「社員の英気」がすっかり失われてしまっている、その結果として経営者が意図するか否かに関わらず、ブラック企業と呼ばれるような職場環境を作り上げてしまっているのではないでしょうか。企業経営者には、自己の経営方針や経営姿勢を顧みる際のひとつの大きな指針になるのではないかと思うのです。
堀場氏の経営姿勢の中で、もうひとつ特筆すべき重要なものがあります。それは経営リーダーの立場から早期に退き、後進に道を譲ったことです。自身は常々「人間のあらゆる能力を総合したピークは40代であり、50代になったら経営者を退き後継者にバトンタッチするのがよい」と言ってはばからず、実際に創立25周年を期に53歳の若さで正式に引退を表明し長男に社長のイスを譲りました。
オーナー企業における後継へのバトンタッチの難しさは、このコーナーでもたびたび取り上げていますが、この堀場氏の有言実行は、早くから事業承継の意識と期限を持って準備をすすめてきたからこそなしえたものに相違ありません。「ワンマン社長の首を斬るのは自らしかない」。堀場氏のこの言葉は、多くのオーナー経営者が真摯に受け止めるべき、重たい一言ではないでしょうか。
「世のために何ができるのか、自分は何がしたいのかが仕事の基本」、「おもしろおかしく」、「ワンマン社長の首を斬るのは自らしかない」。堀場氏が中小企業経営者として掲げたこれらの指針は、氏亡きあともベンチャー企業家や中小企業経営者にとって、自己の会社運営を顧みる際に長く有益な材料となることは間違いないでしょう。私もまた、氏の経営指針を心に深く刻みつつ、企業経営のお手伝いを心掛けていきたいと思います。
堀場雅夫氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。(大関暁夫)