今日のテーマは「オワハラ最新情報」です。オワハラは、以前(2015年7月6日)にも取り上げましたが、その後、最新情報が入りましたので改めてお伝えします。
なお、オワハラについて、私はどちらかを断罪するものではありません。学生が被害者であることはもちろんですが、企業側もある点では被害者でしょう。ただ、そのうえで、「それはいくらなんでも」という事例をご紹介していきます。
8月待たない企業に「人権侵害」
まずは、学生側の「やらかし」から。学生側は、早めに内定が出ても、「選考解禁」である8月まで待つのが当たり前と考えるようです。
が、企業からすれば、早めに内定者を確定したいのが人情。
それに、就職氷河期だった2000年代前半だと内定承諾の是非を待つ期間はせいぜい3日程度、という企業も珍しくありませんでした。2000年代後半から2012年ごろでも、1か月か2か月程度。5月以前に内定を出した企業からすれば、3か月も内定承諾を待つのは未経験の話です。
もちろん、内定辞退をさせまいと脅迫めいた話をするのはアウト。
一方、渋い顔をするとか、期限を区切るくらいは、オワハラではない、と考えます。
しかし、学生によっては、それすらも「人権侵害」と騒ぎ、あまつさえ、キャリアセンターやゼミの教員にも苦情を申し立てる方もいるようです。渋い顔をされた程度で人権侵害なら、社会は人権侵害の連続。他人事ながら、彼らが社会の荒波に消えていかないか、心配です。
リクルーター、若手の暴走
では、ここから企業側のやらかし。
オワハラを色々と調べていくと、多いのがリクルーターや若手採用担当者の暴走でした。
採用担当者でそこそこ長い人であれば、オワハラが企業側にとって損となることはよく分かっています。
では、なぜリクルーターや若手の採用担当者が暴走するのか、それは話し方にあります。
採用担当の役員なり、部長クラスの上司が気に入った学生がいるとしましょう。
それを褒めたい、でも照れくさい役員・管理職は、言い方を若干変えます。
「▲大の×君、いい子だなあ。うちに来るように伝えておいて」
この役員・管理職クラスからすれば、「いい学生に内定が出せた、ありがとう」くらいのつもりです。
仮に内定辞退をしたとしても、無理に連れてきてすぐ辞められるよりは、内定辞退をしてもらった方がまだまし、という割り切り感は持っています。
この微妙な言い回しを、ベテラン社員や、営業部門から配属されたエースクラスの採用担当はきちんと読み解きます。
ところが、リクルーター、それも営業部門でも数年程度の若手社員や、採用担当の若手クラスだと、この微妙な言い回しを理解できません。
「伝えておいて」→「絶対に内定承諾させろ」と勝手に変換してしまいます。
勝手に業務命令ととらえてしまい、ついつい熱が入る、という次第。
「熱さ」がウザったい
リクルーター、若手採用担当が暴走すると、「個人面談を勝手に入れようとする」「入社承諾を訴えるメールが長く、それもしつこい文面に変わってくる」などの特徴を持つようになります。
それに加えて世代間格差があります。今年からの就活後ろ倒しで、20代の社員といえども、内定承諾まで待つ期間が数か月という長さが理解できません。
そこで自身の経験から、こんな話をしだします。
「私も就活の時、3社内定を貰ったけど、他の2社を断るまでの期間はせいぜい1か月。あなたもそれくらいで決めなきゃ」
「すぐ決断できない人は社会に出ても仕事ができない」
「いつ決断するのか?今でしょう!」
どこかの予備校講師みたいな話ですし、話している本人は善意で話しています。
ただし、それはあくまでも企業側の都合です。学生からすれば、そこまで熱いと、話でもメールでも、ウザったい、となってしまいます。
「同業他社に内定」学生への「脅し」
さらに暴走する若手だと、こんな話も。同業他社に3社内定した学生に対してです。
「うちとA社さんとB社さんな、みんなビジネス関係にあるんさ。で、あなたがうちでなく、A社さんでもB社さんでも選んだとしようか。ビジネス関係がある以上、あなたの悪い話も伝わりやすいけど、その辺も含めて考えてくれる?」
この社とA社とB社は、商取引もあれば、採用担当者が個人的につながってもいます。
ただ、その場合でも、この若手社員の話し方は、あまり賢いとは言えません。
同業他社が同時に内定を出す、ということはそれくらい、その学生の優秀さを示しています。
仮に、どこを選んでも、その社はもちろんのこと、他の2社もビジネスの相手として付き合っていくでしょう。
「悪い話」云々はあまりにも安っぽい脅しですし、実際にはそんなことはありません。
多少でも、営業経験のある社会人なら、思っても言えない話です。案の定と言いますか、これを話したとされる若手採用担当者は営業経験が全くない方でした。
ご本人は自己評価で「できる採用担当者」と思い込んでいるようですが、取り返しのつかない事態になる前に気付くことを祈ります。
さらに別の社では、リクルーター・若手社員の暴走を計算しているベテラン採用担当者もいました。
それとなく伝えて、暴走するように仕向けるわけです。仮にばれても、リクルーター・若手社員が勝手に暴走したことにする、と。
リクルーター・若手社員からすれば、都合が悪ければ切られる、まさにトカゲの尻尾切り。
「内定辞退に損害賠償」事件のてん末
現在進行中の2016年卒ではなく、今年3月卒業の2015年卒では、とある流通企業で内定辞退学生に対して、損害賠償する事件が発生しました。
内定を出したのが2月、学生が辞退したのは3月。損害賠償を請求されてもおかしくない時期です。
ただし、企業にとって損害賠償が可能でも、多くの企業は請求を放棄します。企業イメージを考えれば明らかに損だからです。
ところが、この流通企業は、内定辞退学生に対して、腹に据えかねたのか、損害賠償を請求しました。それも、この学生の実家に直接送りつけたとのこと。
その金額は、と言えば、5万円。借り上げ社宅として用意したアパートのキャンセル費用です。
こう言ってはなんですが、それぐらいならその社で損金として処理しろよ、という話です。
大物がブチ切れ
仮に、この学生が全面対決を選択した場合、この流通企業の名前はばっちり出てしまいます。
いくら内定辞退の非が学生にあるとはいえ、その企業へのバッシングは止まらないでしょう。そうなれば、仮に内定辞退による損害賠償(5万円)を勝ち取っても、その数百倍以上のマイナス効果が発生したに違いありません。
どうも、この流通企業は、内定辞退学生のうち、気が弱そうな学生を狙い撃ちにしたようです。
実際、この学生は、企業の請求通り、5万円を支払ったそうです。
だから、内定辞退は怖い、ということで終わり、ではありません。この内定辞退学生は流通企業が睨んだ通り、気弱でしたが、一つだけ見込み違いがありました。
それは、この学生が属する大学のキャリアセンターのトップが、キャリアの世界では相当な大物だったことです。
事の次第を知ったトップは当然ながら激怒。
「確かに土壇場で内定辞退をしたうちの学生は悪い。しかし、だったら内定辞退をしないよう、そちらは工夫したのか?そもそも、損害賠償を実家に送りつけるとはどういう了見だ?」
流通企業の採用担当は、喧嘩する相手が悪すぎると分かるや、全面謝罪。損害賠償はその学生1人にとどまりました。謝罪するなら返金しろよ、と個人的には思いますが、それはまた別の話で。
その流通企業がどこかは・・・、無言を貫くということでお察しください。(石渡嶺司)