今日のテーマは「面接でのやりとり」です。面接ではよく「会話のキャッチボールのように」と言われます。
では、そもそも「会話のキャッチボール」とはどのようなものでしょうか。
聞きたいのは体験談
たとえば、大学での勉強をアピールしたい学生の場合。
「おもてなし学部でホスピタリティを深く学びました。この学びを御社でも生かしたいと思います」
(ここでの「おもてなし学部」は架空の存在です)
観光や航空、流通など接客中心の企業なら業務内容と大学での学びがマッチングしています。それ以外の業界でも、それほどマイナスとなるアピールではありません。
ただし、当然ですが採用担当者からすれば「ホスピタリティを深く学んだと言うけれど、具体的には何をやったのだろうか」と疑問に思います。
そこで、素朴な疑問として、
「おもてなし学部でホスピタリティを深く学んだ、とのことですが、別に他の大学や学部でもホスピタリティは学べますよね」
と聞いてきます。ちょっと意地悪とも言えなくはないですが、社会人からすれば聞きたいところ。
ここでドツボにはまる学生は反論してしまいます。
「いえ、当学部は日本でも珍しい学部ですし、ホスピタリティの専門家も教員として在籍しています」
仮にそれが事実だとしても、ホスピタリティを学べる大学・学部は他にもあります。そもそも聞きたいことは、他大学・学部との違いではありません。「深く学んだ」と言い切る根拠、つまりこの学生の体験談を聞きたいのです。
だったら最初から、
「深く学んだとのことですが、具体的な実例を挙げていただけませんか」
と聞いても良さそうですが、あえて意地悪く聞く企業もあります。
「そもそも、おもてなし学部は日本の観光業界を支える実践的人材の養成を目的として20●●年に設立~~」
おやおや、大学広報課職員でもないのに学部の意義まで説明し出しました。こうなると、ドツボの深みにはまっていくだけです。
盛り上がっても、それは形だけという怖さ
企業側も心得たものです。学生が表面的なことしか話せないとわかれば、以降、深掘りする質問はしなくなります。
面接担当者が複数いる面接だと、深掘り質問をしなかった面接担当者が以降、主導権を握ります。大学からサークル、アルバイト、趣味などに移していき、学生が話しやすいテーマを探ります。
そこで学生の話しやすいテーマになれば、学生の好きなように話をさせます。これは面接担当者が1人でも同じ。
学生からすれば、
「面接の最初の方はダメだったけど、途中から話したいことが話せてよかった」
との評価に。それでいて面接結果は不合格。
学生からすれば、手ごたえを感じていたのに、なぜ落ちるのか不思議です。
とは言え、学生は面接序盤のグタグタさより、中盤以降の話しやすさが印象に残っています。落とされた企業に対してそこまでネガティブな印象は持ちません。
この印象操作こそが、採用担当者の狙いです。
「学生個人の話を聞きたいのに、学部がどうした、とか、コミュニケーション能力がどうした、とか、抽象的な話をする学生が多すぎます。いや、百歩譲って、話の取っ掛かりが抽象的なものでもいいです。ただ、そこから個人談をちゃんと話してほしい。ただ、そこで『具体的には?』と聞くと、ひねりがない。だったら、意地悪かもしれませんが、学生の否定から入ります。これで、あ、抽象的な話がまずい、と分かるかどうか。ダメならあきらめて、学生の話しやすいように話をさせます。その方が悪い印象は持たれないですし」
この話を学生にしたところ、
「面接にそんな怖い意図があるなんて」
と絶句していました。まあ、怖いですねえ。でも、それだけ企業だって懸命なんです。
どん底営業部を常勝軍団に変えたYES,BUT法
では、学生が自己PR等を否定されたときはどうすればいいでしょうか。
ここでお薦めしたい本が新潮新書の『どん底営業部が常勝集団になるまで』(藤本篤志)です。
新潮新書は営業関連の本を多数出しており、同じ著者の『御社の営業がダメな理由』や『営業部はバカなのか』(北澤孝太郎)などもお薦め。
さて、同書は生活協同組合コープさっぽろについて取り上げています。
札幌市内では抜群の知名度を誇る流通企業ですが、ここで2軍扱いされていたのが、宅配営業部です。
この宅配営業部のコンサルタントを任された著者が、2軍扱いだった部署がなぜ常勝軍団に変わっていったかをまとめたのが同書。
常勝軍団に変わっていった理由はいくつもあるのですが、そのうちの一つがYES,BUT法です。
「まず相手の言葉は絶対に否定しないこと。その主張や説明を、ときおりうなずいたり、ほめたり、同意したり、うらやましがったりして、受け入れる。相手の話を全部聞くことも重要だ。途中で遮ったり、話の腰を折ったりしてはいけない。人間というのは、しゃべりたいことを全部しゃべると、心が満たされる。相手が全部しゃべりきって、心にゆとりができたタイミングで、ソフトに営業トークを展開していくのだ」
この例として、歩くことを健康法としているお年寄りを挙げています。
「宅配は、僕にはまだ必要ないよ。健康のために歩いて買い物に行くことにしているんだ。人間は脚から老化するからね」
ここで、先の例の学生のように自分の話をしたり、相手を否定したりした場合はどうなるでしょうか。同書には書いていませんが、私の身内などから想定してみました。
「いえ、単に歩けばいいというものではないでしょう。治安だって最近はよくないですし、危ないですよ。それにうちに宅配事業は2000種類も商品を扱っていますし、使っていただけると便利です」
「なんだ、貴様。人の健康法をバカにするのか。もういい、帰ってくれ」
こうして契約が取れないことは明らかです。
では、常勝軍団はどのようにして話を進めたのでしょうか。以下、同書からの引用です。
「歩くのは素晴らしい心がけですね」
「うん。そうだろ。あなたも歩いたほうがいいですよ」
「はい。ぜひそうします。でも、お米やビールのような重いものを買う時も、ご自分で運ばれているんですか?」
「ああ・・・、あれはけっこう腰に来るね」
「せっかくたくさん歩いていらっしゃるのに、腰を痛めて本末転倒になってしまわないように、重たいものだけでもカタログ購入をご検討してみませんか」
どうでしょう、契約が取れる確率、相当高そうと思いませんか?
就活生もパクれるYES,BUT法
このYES,BUT法は就活生もパクれます。冒頭の学生の場合だとどうでしょうか。
人事「おもてなしってあなたの学部以外でも学べるでしょ?」
学生「確かにそうですね。大学での勉強が楽しかったですし、気付きも色々学べたのでつい大げさに書いてしまいました」
人事「そんなによかったの?」
学生「はい、接客とは単に相手をちやほやするだけ、と高校まで思い込んでいました。でも、それだけでなく、相手のことを考えて行動する、これも接客では大事と教えてもらいました」
人事「確かに色々、観察するのが大事だからね」
ここから、個人談につなげていけばかなり評価は高いはず。
今回は、『どん底営業部』でも引用されている名探偵シャーロック・ホームズが助手のワトソンへの一言を引用して締めるとしましょう。
同じ現場を見ているのに、ホームズは事件を解決し、ワトソンは解決できません。その差を示した名言ですが、営業でも就活面接でも同じことが言えます。
You see,but you do not observe.The distinction is clear.
「君は見ている、でも観察していない。その違いは明らかだ」
いかがでしょうか。(石渡嶺司)