私は悪くない。悪いのは現場でミスした社員です
銀行員時代の話です。大手の下請けとして業績が安定していた精密機器部品製造のC社が突然、大量の不良製品を発生させ、大手先の信用を失って仕事を大幅に減らされるという窮地に立たされたことがありました。銀行が資金協力を前提に事の次第をヒアリングしに行くと、当該部品製造部門責任者である部長を伴って事情説明に現れたS社長は、部長の説明が終わるや否やその説明に再び不祥事の怒りがこみ上げたのか、「君は本当に僕の会社をつぶす気か!」と我々の前で部長を激しく叱責したのです。
社長は我々に向き直ると、「当社はこんなしょうもない社員ばかりですが、しっかり指導して信頼回復に向けてがんばります。引き続きご支援よろしくお願いします」と資金協力を願い出ました。社長の社員に対する高圧姿勢とうらはらの銀行に対する低姿勢に、私には非常に後味の悪さが残りました。社長の責任を部下になすりつけるような姿勢から、明らかな「保身」がうかがわれたからです。「会社とそれを率いる私は悪くない。悪いのは現場でミスした社員です」。そんなことを言いたいような態度に映ったのです。
それから3か月後のこと、銀行からのC社向け資金協力は打ち切られ、他行からの支援も得られず、C社は破産申告することになります。その後の調査で、不良在庫を意図的に少なく計上し、財務上化粧することで銀行の協力を仰いでいたことが判明したからです。明らかな粉飾でした。本当のことを言えば協力が得られず、会社がつぶれてしまうかもしれない。そんなS社長の「保身」がつかせたウソだったのでしょう。