社内の風通しと現場への目配りは徹底していた
リクルートと言えば、創業者の故江副浩正氏が作り上げた企業遺伝子が今も脈々と生き、次々に優秀な起業家人材を世に輩出していると評判の企業でもあります。同じ日にH社長と企業遺伝子継承の話をした直後でもあったので、Y氏には「リクルートの企業遺伝子はいかにして受け継がれていくものなのか」について、少し聞いてみることにしました。
「私がリクルートに入った時代はまだ江副さんがトップを務めていたこともあるのですが、末端まで江副さんのやり方や考え方が浸透していました。でも、江副さんにいわゆるワンマン経営者のイメージはありませんでした。社内の風通しと現場への目配りは徹底しており、私が入社する少し前までは全社員の顔と名前が一致していたと言います。振り返ってみれば、企業内のあらゆる業務やことの進め方にごく自然と江副イズム、イコール、リクルートイズムが浸透し、経営者と現場の『距離感』に近さを感じるわけなのです。この点は江副さんが去られた後も脈々と受け継がれ、誰が上に立とうとも企業文化として大きく変わることはなかったです。そのことが今の自分の会社経営にも活きていると思います」
何事も現場主義で、足を踏み入れ自身の思想を浸透させていく。江副氏のスタイルがあるべき企業遺伝子継承法のすべてではありませんが、先のH社長のお悩みに対してタイムリーに参考になる話であると感じさせられました。
H社長の場合、Y氏が言うところの「距離感」というキーワードにまさしく問題点を感じさせられます。社長は創業者でかなりのワンマン。企業理念をしっかりと掲げ運営方針も自ら指示してはいるものの、長年ワンマン運営を重ねに重ね歳をとられた現在では、いろいろな場面で言いっぱなしあるいは命令一辺倒になりがちなご様子で、社長と現場との「距離感」は決して近いものであるとは言えない状況にあるからです。