相変わらず、ギリシャがたいへんなことになっています。
ギリシャの財政問題で、銀行閉鎖、実質的な預金封鎖という事態までおこっているわけで、まさに「金融危機」です。 ちまたでは、銀行が預金から強制的に資産を没収するなどという噂も出ているそうで、財政緊縮策にNoを突きつけた国民投票結果の影響も含め、今後どうなるか全くわからない状態です。
2011年時点で「スイスとマルタに口座を作って移動している」人も
市内では、ATMからお金を下ろすことを求めて銀行に並ぶ人があふれ、さながら旧ソ連の末期時代のようです。しかし、私はこの様子をニュース映像でみて、いくつか疑問がわきました。
この人たちはこうなる可能性を見越していなかったのだろうか?
私は2011年末にギリシャに行きました。 当時、ギリシャを起点とした欧州経済危機が訪れており、その中で危機的状態になっていると言われていたPIIGS(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ<Greece>、スペイン)を全部回るという旅をしたのです。
イタリアのナポリでデモをやっているのは日常茶飯事として、ポルトガル、アイルランド、スペインなんかはきわめて普通だったのですが、ギリシャは5日間の滞在中、地下鉄が動いたのは1日だけ(あとはスト)、警察のストも1日、最終日も空港に向かう電車がストで止まって、途中の駅で降ろされて、タクシーで空港に向かうことになるというひどい目に。さすがギリシャはひと味違うと思ったものです。
あれから4年近くが経ち、事態は悪化に悪化を重ねてこうなったわけですが、ギリシャの人たちは、こうなることに気付いていなかったのでしょうか?気付いていたなら、なぜ、銀行のお金をタンス預金にしたり、海外に口座を作って移したりしていなかったのでしょうか?
多くの賢い、そしてお金をもっているギリシャ人は、それを実行していたと思われます。
私が話した何人かのギリシャ人の実業家は
「この国の銀行は5年は持たないだろうね。ユーロがいつまで使えるかもわからない。ドラクマなんかになったら、資産価値は滅茶苦茶だよ。だから、スイスとマルタに口座を作って移動しているんだよ」
「息子はドイツに留学させる。彼が大人になるまでこの国でろくな働き口ができるとは思えないからね」
何てことを言っていました。
4年前から今の事態は想定の範囲内であり、回避するのは容易なことだったのです。
住めるところを増やす、働けるところを増やす、お金を預けられるところを増やす
ただ、これは、この事態にいち早く気付くことができ、それを回避するための知識があり、実行するだけの行動力と、元となる資産がある人だけです。
その日暮らしの賃金で生活している人や、年金だけを当てにして生活している人は、こんなことをしている余裕がありません。ヤバイよヤバイよと思いながらも、明日の賃金が上がることを夢見てデモに参加し、それが自分のクビを絞めることに。とても悲しい事態です。
私が思うに、我々がギリシャのこの事態から学ばなくてはならないことは、
・国家は破綻し、銀行は預金を封鎖し、資産が個人の自由にならなくなる可能性があること
・国から支給される年金や、会社から支給される給料は、容易に減額されたり、場合によっては消えてなくなったりする可能性もあること
・これらの事態を回避するためには、知識と行動力と資産が必要であること
ではないでしょうか。
自身が選挙や住民投票に投票し、政治に参加することは大切なことです。時にはデモに参加するのもよいでしょう。
しかし、自分1人の力で抗えない事態も多々あり、世の中は自分の考えなんてお構いなしに流れていきます。その流れの中で、自分で舵を取って生きていく術を学ぶことは、政治について考えることと同じくらい大切です。
住めるところを増やす、働けるところを増やす、お金を預けられるところを増やす、そうやって人生の選択肢を増やしていくことで、危機を回避することが容易になります。
日本がすぐにギリシャのようになるとは考えにくいです。
しかし、「なにか」が起こったときに、自分で自分の身を守る方法をしっかりと考え、準備をしておくことは大切です。
準備をしないで、国が危機に陥ったらどうなるか。自分がギリシャ国民の1人だったと想定して、今、そしてこれから起こるであろうギリシャ悲劇の顛末をしっかりみておくことは、これからこの世界で生きて行くにあたって非常に重要なことになるはずです。(森山たつを)