難航している与党の派遣法改正案に対し、維新が衆院委員会での採決に応じ、出席したうえで反対する方針を決めた。他の野党の対応はともかく、これで衆院通過も見えてきた。維新側は、民主党などと共同提出した「同一労働同一賃金推進法案」の支持と引き換えに、採決に応じることにしたという。
派遣問題の本質とは「守られすぎの正社員」と、そうではない派遣労働者の格差問題であり、派遣労働そのものが悪いのではない。だから、処方箋としては同一労働同一賃金に基づく新たな基本ルールを策定する以外になく、維新の提案はそれに沿ったものと言える。とりあえず改革への第一歩と言っていいだろう(やや先行き不透明感はあるが)。
一方、情けないのが民主党、共産党、社民党といった既存リベラルの面々だ。今回の派遣法改正案に対する対応で、はからずも各党の本質が露わになってしまった感は否めない。
「3年ルール」に反対できない野党の面々
今回の派遣法改正案には2つのポイントがある。
1:専門26業務と呼ばれる派遣労働者にも「受け入れ後3年で直接雇用に切り替えさせる」という3年ルールが適用される
2:一定の条件を満たせば、3年ごとに派遣労働者を替えることで、企業はずっと同じ職場で派遣労働者の受け入れが可能である
上記「1」については、従来は「専門26業務だから」という理由で長く同じ職場で働くことの出来ていた派遣さんの間で(法案成立を見越して)派遣切りが広がりつつある。でも、この点について、リベラルの側からの批判は全くと言っていいほど聞こえてこない。それはそうだろう。「3年ルール」の強化と順守をこれまで強く主張してきたのは彼らリベラル自身だから。自民党が改正に盛り込んでいるのは、定義の曖昧な専門26業務という区分けの廃止に過ぎない。
「3年ルールのせいで専門26業務の派遣切りが起こっているから法改悪はやめろ!」と言ってしまうと、「じゃあこれまでその何倍もの一般派遣労働者が切られてきた責任はどうするの?というか、例の派遣切りの責任の一端もあなたたち自身にあると認めるの?」という風に壮大なブーメランが返ってくることは間違いない。
だから、彼らは「1」は無視しつつ、ひたすら「2」をとりあげて、「規制緩和は派遣の固定化につながる!」というロジックに絞って批判を続けている。
派遣労働者は石っころに過ぎないのか?
でも、これも矛盾した主張だ。社民党も当初参加した民主党政権下では、3年ルールの強化、専門26業務判断の厳格化など一連の規制強化が行われたが、終わってみれば確かに派遣労働者は減らせたものの、増えたのはパートやアルバイトであり、正社員はさらに減少してしまった=図1=。厚労省の「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」もそうした事実を認めつつ「パートや契約社員を中心に非正規雇用労働者は増加を続けており、派遣労働だけ規制しても意味が無い」と総括も出している。
みずからの失政から、なぜ彼らリベラルは学ぼうとしないのだろうか。頭が悪いから、とは、筆者には思えない。先述のように、彼らは論戦において巧妙に、上記の「1」に触れるのを回避している。すべて理解した上での行動だろう。彼らからすれば、しょせん派遣労働者なんて、政敵に投げつけるための石っころに過ぎないのだろう。
フォローしておくと、筆者は別に自民党を持ち上げる気もなくて、あの党の雇用問題に対するスタンスは基本『無関心』である。とはいえ「自分に無関心な相手」と「自分を石っころくらいに思っている相手」のどちらがマシかと言えば、まだ前者なのではないかというのが、筆者から派遣労働者へのアドバイスである。(城繁幸)