監督官の数などから、現実的な数字
また実際問題として、労働基準監督官の数が足りず、中小企業までカバーしきれていないという現状もある。
労働基準監督官は全国に約3000人いるが、実際に臨検監督を行う監督官は、管理職などを除くため 2000人を下回る。一方で、 1 人でも労働者を使用する事業所は全国に約 400 万箇所存在しており、監督官1人あたり2000箇所以上。平均的な年間監督数で換算すると、すべての事業場に監督に入るのに何十年も必要な計算となってしまうのだ。
また、労働者 1万人当たりの監督官数で比較すると日本は0.53 人で、アメリカを除く主要先進国と比して 1.2 倍~3.5 倍の差がある。厚生労働省としても、監督官の人員増要求は以前からおこなっているのだが、厳しい行財政状況もあり、なかなか難しいようだ。
この問題については以前、本連載の記事「『多すぎる相談・少ない監督官』で、指導徹底はどこまで可能? ブラック企業問題、ズバリ厚労省に聞く(下)」(2014年2月1日配信)でも述べた通りで、人数の割に対処すべき問題が多い以上、どうしても優先順位はつけざるを得ない。より重大なもの、より証拠がしっかり揃っているものを優先することになる。
そのような状況下においては、証拠となる情報が揃いやすく、精度も比較的高い大企業は取締対象として現実的というわけなのだ。
確かに中小企業の場合、社名公表どころか、ネット上でブラックという評判が立つだけでも全く人が集まらなくなり、経営が傾くくらいのインパクトを受けてしまうことはある。
確信犯なら同情の余地はないが、「ウッカリしていた」「知っていれば改善する気はあった」ということなら、こんどは経営権をどう保護するかという問題にもなりかねない。
労基署としてもリソースは限られている。この取組を有効に運用し、着実に改善を進めていってほしいものである。(新田龍)