「ナナメの関係」という言葉を聞いたことのある人は、いるでしょうか。思春期の子育て論で、よく出てくるキーワードです。「タテの関係=親や教師」や「ヨコの関係=友人」でもない、「第三者」の大人のこと。「ナナメの関係」にあたる大人がいると、子供たちは、誰にも言えないイジメや、親との関係などの悩みを打ち明けることができ、救われることがあるといわれます。この「ナナメの関係」、実は「会社」でも大切ではないかというのが、今回のお話です。
筆者の知人、N子は今年、新卒1年目。とある大企業の、経理部に配属になりました。現在、オン・ザ・ジョブ・トレーニングの真っ最中。ただ、仕事を教えてくれる先輩との関係が、今ひとつだそうです。
「タテの関係」の先輩とは相性が合わず、「ヨコの関係」の同期は信用できない
「私、動きが遅いっていうか、気が利かない系だな~って、自分でも思うんです。教えてくれる先輩は、2年目だけど、ものすごく色んなことに気がつくタイプで、仕事量も多いのに、どんくさい私を教えてて、イライラするだろうなって。コピー用紙の交換とかも、新卒の私がやらないといけないのに、先輩が率先してやるんです。で、『このくらいのこと、新人なら、気づかなきゃね!』って。そういう言葉の1つ1つがプレッシャーで・・・毎日、胃が痛いです」
N子は、「タテの関係」である先輩の一言ひとことに、怯えている様子。「同期とは、愚痴を言い合ったりしないの?」と聞くと、「同期の女子に先輩の愚痴を言ったら、すぐに噂が広まりそうで怖いんです」。う~ん、先輩も同期も、あまり信用できないのか・・・。そんな彼女にとって、唯一の「癒やし」が「郵便ルームのおじさん」と喋ること、なのだそうです。
おじさんの「ユルさ」に癒やされる
多くの大企業には、「郵便室(郵便ルーム)」と呼ばれる部屋があります。そこには、会社に届いた郵便・宅配便の受け取りや仕分け、発送、社内便の対応などを手がける担当者がいます。最近では業務全体をアウトソーシングし、派遣社員やパートさんが郵便物の仕分けをしている会社も、多いようですね。新卒のN子にとっては、毎日2回、郵便ルームへ赴き、社外に出す郵便物を持って行ったり、自分の部署に届いた荷物を受け取ったりするのが、仕事のひとつなのです。
「うちの郵便ルームには、いつも同じおじさんがいるんですよ。派遣社員さんかな。もう60代近いんですけど、私の顔と名前を覚えてくれてて。単に、新卒の私が珍しいだけかもしれないけど、『N子ちゃん、今日は元気がないね』とか言ってくれて。この前つい、『仕事きついです』って愚痴っちゃったんですけど、『新人なんだから、あんまり無理しないで、適当でいいんだよ~』って、高田純次みたいなユルさで(笑)。なんか癒やされました」
毎日、ほんの5分ほどの会話ですが、N子にとっては、タテの関係(先輩)でもない、ヨコの関係(同期)でもない、「ナナメの関係」である「郵便ルームのおじさん」の存在が、癒やしになっている様子。彼女を見ると、仕事上の利害関係がない「ナナメの関係」にあたる大人がいることは、子育て期だけでなく、社会人になってからも重要なのだなと思います。そういう大人と話すことで、現実を客観視できたり、「もう少し頑張ってみよう」と思えたり。もし今、何かストレスを抱えているのなら、意識的に「ナナメの関係」にあたる人を探してみるのも、ありではないでしょうか。N子にとっての「郵便室のおじさん」のように、意外と身近な所にいるかもしれませんよ。(北条かや)