今回のテーマは「就活本が後ろ倒しで受けた影響」です。
例年通りなら、順調に売れる就活本。
しかし、2016年卒から時期変更(後ろ倒し)で学生は大きく影響を受けました。
そして、その影響は学生だけではありません。書店関係者や出版社も振り回されることに。
今回は現3年生である2017年卒対象の就活本、2017年版がどうなるのか、まとめてみました。
3年生は知らないと、就活本で損する、かもしれません。
SPI本の出版時期
就活本の中での売れ筋と言えば、SPI本です。
このSPI本、怪しいところが多々あることは、2014年12月15日記事「『勝敗を分ける』就活本の選び方 SPI編『その対策では空回り』」にまとめましたので、そちらをどうぞ。
さて、SPI本は、例年だと、5月~6月ごろに出そろいます。
従来の就活スケジュールなら、SPI試験の実施が1月~3月ごろなので、十分余裕がありました。
では、今年、2017年版刊行はどうでしょうか。
本来なら、時期変更(就活後ろ倒し)で、SPI試験の実施自体も遅れている企業が多いはず。
SPI試験に詳しい関係者によると、
「4月末までの2か月間で情報とって、新傾向を分析、問題作成をして、6月末に入稿。校正などを考えれば、最速でも9月刊行がいいところのはずなんですが」
とのこと。
しかし、実際はどうでしょうか。
・高橋書店『最新!SPI3完全版』・・・5月13日
・新星出版社『2017年度版 速攻!これだけ!!SPI 』...6月5日
・一ツ橋書店『クリア!テストセンター・SPI3<2017年度版>』...5月29日
・ナツメ社『2017年版 ダントツSPI一問一答問題集』...5月21日
・永岡書店『2017年度版 SPI問題集 決定版』...5月27日
・成美堂出版『最新最強のSPIクリア問題集 17年版』...5月15日
・TAC出版『無敵のSPI3 でる順 徹底攻略本』...未定(2016年版は2014年9月刊行)
・洋泉社『これが本当のSPI3だ!』...不明(秋に刊行の予定/電話取材に対して出版社は「刊行時期について、電話では回答できない」。ただし、生協・書店関係者からは秋の刊行予定とのこと)。
未定のTAC出版、未定と推定される洋泉社以外は、例年通り、5月から6月にかけての刊行が決まっています。
この刊行時期、ビジネスという点ではいいのかもしれません。
が、2016年卒のデータを取る、という点では果たして間に合っているのか、という疑問があります。
後ろ倒しで、SPI試験の実施が4月から6月にかけて、であれば、どう考えても5月~6月刊行は厳しいはず。最新データはどうやって取ったのでしょうか。それとも...
学生大迷惑の16年版・17年版の混在
まあ、善意に解釈して、SPI試験の実施自体は例年通り、1月~3月であり、データ収集は十分間に合ったとしましょう。
実際にそうした企業が多いことは、私も取材で把握しています。
しかし、そうだとしても、問題はまだあります。
年度版刊行の場合、どの本でも、多くの出版社では、刊行の1、2か月前には以前の商品の出荷を停止します。そうでないと、新年度版が売れなくなるからです。
また、書店側も、入荷予定日が確定した段階で、新年度版刊行の1か月前には旧年度版を返本します。
つまり、5月~6月刊行だと、3月~4月ごろにSPI試験を受ける学生は、関連本を入手しようとしても、入手しづらくなります。
それから、書店によっては、新年度版と旧年度版を混在して販売するところもあります。
一般書店では、さすがに少ないですが、ネット書店では、混在しての販売が当たり前。
では、問題。2015年6月から8月にかけての4年生は、16年版と17年版、どちらを買えばいいでしょうか?
グループディスカッションのテーマにもなりそうなくらい、ややこしい問題です。
それとも、多くの学生が指摘するように答えは、
「古い年度のものを中古1円で買う」
なんでしょうか。5月~6月刊行の出版社関係者の方、ご回答をお待ちしております。
編集費削減で正誤表がすごすぎる
SPI本については、どうも各社とも編集費用を圧縮しているようです。特に校正・校閲。
Amazonレビューなどを見ると、
「誤植がひどい、ふざけるな」
など、怒りの投稿が多数。
そもそも、SPIは範囲が広く、校正・校閲は相当時間がかかります。それを無理に圧縮して、校正時期を本来の半分しかとらない、あるいは、3回校正を掛けるところ1回のみ。
SPIではなく、別の適性検査では、すごい本だと、過去に約50か所も誤記があると指摘された本がありました。
この誤記への対応も、
「正誤表は掲載しない。電話での問い合わせのみ、回答」
「サイトに正誤表を掲載するが、新年度版刊行と合わせて旧年度版の正誤表は削除」
など、各社分かれます。
誤記が出るのは仕方ないにしても、こういう対応、果たして学生相手のビジネスであるべき姿なのか、疑問に思います。
売行きが年明けから急回復
東洋経済新報社の『就職四季報』シリーズは総合版、女子版、優良・中堅企業版の3冊、それに姉妹版である『会社四季報業界地図』を刊行しています。
就活への意識が高い(悪い意味ではなく)学生は、この4冊のうち2冊は買っていきます。
大学生協の書店でも、いい本ということでプッシュするところが多数。
まあ、定価2000円前後と高い本なので、書店からすれば利益が大きい、という事情もあります。
この『就職四季報』シリーズ、2016年卒の就活では序盤戦となる2014年12月から1月ごろにかけては、どの生協でも売れず、書店関係者は悲鳴を上げていました。
それが2月ごろから急に回復。大学の講義が終了し、学生が大学に行かない(だから生協書店などにも寄らない)と思われていた2月・3月も、かなり学生が動き、『四季報』はじめ、就活本も売れるようになったそうです。
『四季報』はいつ刊行?
さて、この『四季報』、例年だと11月中旬に刊行します。
6月から7月にかけて、企業側にアンケートを実施。内定状況などのデータをまとめたうえで11月刊行となります。
ところが、今年は後ろ倒しで、6月~7月だとまだ内定が出そろっていない企業があります。
東洋経済新報社に取材したところ、
「まだ刊行時期は確定していません。6月か7月ごろにははっきりしていると思うのですが」
とのことでした。
仮にアンケート実施時期が8月なら、12月中旬から2016年1月刊行。15年9月実施なら、16年1月から2月刊行となりそうです。
ただ、2月刊行までずれ込むと、ビジネスとしてどうか、という問題も出てきます。年内刊行がベストですが、さてどうなるでしょうか。
『業界地図』は例年通り?
なお、東洋経済新報社によると、『会社四季報業界地図』は例年通り、8月下旬か9月上旬ごろに刊行とのこと。
この『業界地図』は、内定者データなどは掲載していません。あくまでも、経営情報や業界関連ニュースなどをまとめているので、就活後ろ倒しはそれほど影響しないのです。
念のため、他社に聞いてみると、
「刊行時期は例年通りで進めています」(『日経業界地図』刊行の日本経済新聞出版社)
「刊行の是非を含めて、検討中です」(『最新業界地図』刊行の成美堂出版)
とのこと。
成美堂出版が気になることをコメントしていますが、大丈夫でしょうか。
この『業界地図』、東洋経済新報社版を含めて、情報量が多すぎて、就活生からすれば、どれがいいのか迷いやすい、とよく言われています。
ただ、東洋経済新報社版は、『四季報』シリーズの姉妹版という分かりやすさがあります。結果、
「東洋経済新報社版を10とすると、他社は2か3というところ」(都内難関大生協)
そのため、高橋書店は2013年版(2012年刊行)を最後に撤退してしまいました。
就活時期変更で揺れ動く就活本ですが、3年生も4年生も、どの本がいいか、書店で確認してみてください。(石渡嶺司)