「シリコンバレーに『横並び(年功)給与システム』復活の兆し―男女格差撤廃にも効果」
という記事(TechCrunch日本語版、2015年5月26日)が話題になっています。
「行き過ぎの揺り戻し」「1周回って戻ってきたとか」「欧米かぶれはハシゴをはずされたな」いった反応がソーシャルメディアでは見られていますが、これはまったくの誤読です。
Lockstep型とは
年功給与というと、日本型のものを思い浮かべますが、この記事で解説されているものは、Lockstep型といい、まったく異なるものです。むしろ、ごく普通のポジション別の給与だといえましょう。
この給与体系は、日本でも、外資系のコンサルティングファームや、会計事務所、法律事務所などのいわゆるプロフェッショナルファームが採用し、ほとんどこれです。
簡単に解説すると、これは、ランクごとに給与が予めきまっているというもの。
たとえば、コンサルの場合、アナリストはだれでも一律に年600万円スタート、次のランクのシニアは800万円、マネージャーは1200万円、1番ランクの高いパートナーは2000万円とか(それにくわえて、パートナーになると個人インセンティブのボーナスがつく)。
クラス別に給与がきまっているので、将来の設計はし易い。3年ほど仕事をして、シニアになれば800万だとか、10年ほど頑張ってパートナーになれば2000万だとか、そういう具合です。記事では、このように将来の見通しがつきやすいことを利点としています。
実力主義であることは、なんら変わらない
ただ、日本の年功序列と違うのは、ランクが自動的にあがるわけではないということです。10年たったらみんなパートナーになるわけではない。10年間に競争があって、なれるひと、なれないひとが居るわけです。たとえば、コンサルの場合、採用されたひとのうち10人とか20人に1人しかパートナーになれない。
能力がみとめられて、ランクがあがれ(昇進すれ)ば、給与は増える。ただ、昇進できなければ、いつまでも元の給与のままです(クビもあり得ます)。それに、年齢も関係ない。超優秀なひとは2年でパートナーになったりします。つまり、実力主義であることは、なんら変わらないのです。
一方日本の年功序列の場合は、文字通りの年齢給です。能力に関係なく、年齢に応じて給与がアップする部分があります。これはもともと生活給の意味合いが強く、35歳になれば結婚するだろうし、45歳になれば子供も大学にかよってカネがかかる。だから年齢に応じて給与を出そういうのが根底の発想です。
これらを混同して、年功序列だといっているのは、まったくのミスリードと言わざるを得ません。
「交渉制の給与」の問題点
ではシリコンバレーの問題はなにか?それは「交渉制の給与」にあります。
つまり、プロスポーツ選手と同じ。ずば抜けた実績の選手でなくても、契約のタイミングがよかったり、フリーエージェントのタイミングで引き止めたりすると、市場評価よりかなり高い年俸で契約できたりする。なぜあの選手が、あの年俸?みたいなのがよくあります。同じような活躍をしている選手とくらべても、高い低いのバラツキが大きい。
なお、東南アジアの新興国の給与も、どちらかというと、この交渉制にちかい。企業は、たまたまその時に人手が足りないとなると、相場より高く人を雇ってなんとか仕事を回してもらわないといけなくなります。
同じような仕事をしている別のひとより、採用タイミングがちがっただけで給与が1.5倍違うとかそういうことになって、全体のモチベーション的にはよろしくないわけです。
一方、さきほどLockstep型は、力関係に関係なく、このポジションならいくらという定価を提示するようなもので。たしかにこちらのほうが公平かつ、見通しがよくなります。
私は、外資系コンサル出身で、Lockstep型には馴染みがあります。とてもフェアな制度である上に、社内のモチベーションを失わない仕組みだと思います。(大石哲之)