組織を発展させ、社員を守るという使命感があるか
彼女は、誰に指示を受けるでもなく毎日社長の病室に足を運び、今会社にとって何が必要かを考えた上で、意識もうろうとした社長に無理を承知で「この件はどう対処したよいのか」「あの話は誰の意見を尊重すべきなのか」等々、熱心にいくつもの質問を投げかけては、社長のおぼつかない反応をもとに「社長指令」をつくって社内を統制したのです。社長が1か月半後に退院し、しばしの静養後に無事職場復帰する頃には、彼女はすっかり社内で「社長の後継者」的まなざしで見られるようになったと言います。
「私は連日の高熱でもうろうとしていたのですが、毎日娘がうるさくあれこれ話しかけてきたのはよく覚えています。後で娘に聞いたら、とにかく必死だったと。唯一身内の自分がなんとかしなければ会社はつぶれてしまい、社員が路頭に迷うかもしれないという使命感が、自らを突き動かしたと言っていました。娘があんなに頼もしいとは思わなかったです」
以来社長は、娘さんを後継として育てるべく奮闘中です――
そこで私は、先のH社社長の質問に対し、次のようなJ社社長の大病後の言葉をそのままお伝えしました。
「社長の地位や権限や待遇を欲しがって、社長のイスを欲しがる者は後継にはなり得ません。なぜなら彼らは、自己の利益のために社長になろうとしているからです。組織を発展させ社員を守るという使命感があるか、そして他力本願ではなく自ら動いて組織を率いる行動力があるか、それが最大の見極めポイントですね」
これを聞いたH社社長は、「なるほど」と大きくうなずいておられました。(大関暁夫)