ソニーを狂わせたのは「米国型経営」なのか

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かつて米国がたどった道

   意外に知られていないが、実はアメリカの大手電機メーカーもかつては長期雇用をベースとし、日本企業に近いカルチャーを持っていた。だが1980年代以降、日本の電機メーカーとの競合に晒される中、GEやIBMといった大手メーカーは徹底したコスト管理と10万人規模のリストラにより、今日の復活の基礎を築いている。


   恐らく、ソニーの歴代の経営陣も、ウェルチやガースナーと同じ道を進もうとはしたのだろう。でも、出来なかった。ちょうど先日行われた出井・元CEOのインタビューは、その点を率直に認めたものだろう。

「国の規制も障害になった。日本は従業員を(事実上)解雇できない国だ。(企業が業態を)変えていくことが法律で想定されていない」
(時事通信社「社内不一致で変われず=出井伸之・元ソニー社長」<2015年5月15日配信>より)

   要するに、ソニーを狂わせたのは米国型経営ではなく、むしろ米国型経営の不徹底が原因だということだ。


   終身雇用という形で大企業に国民の生活の面倒を見させれば、表面上、社会は安定しているようには見える。大企業に入れなかった人たちはどうするかって?あなたが右なら「勉強しなかったんだから自己責任」、左巻きなら「終身雇用を守れない中小企業経営陣が悪い、連合と一緒に連帯しよう」なんて言い訳で適当にごまかしておけば済む話。実際、そうやって臭いものには蓋をしつつ、(現役世代向けとしては)きわめて貧弱で安上がりな社会保障制度のまま、日本社会は回り続けている。


   でも、それは企業から活力という最も大事なものを徐々に奪い、やがて経済の停滞という形で、国民全体に大きなツケをもたらすことになるというのが、かねてからの筆者の持論だ。ソニーという企業はその象徴かもしれない。


   最後に、ソニーの今後について記しておこう。ソニーが「活力のある現場」を取り戻すには、膨れ上がった管理職を減らし、年功に関係無しに挑戦できるような仕組みを作るしかない。筆者の感覚でいうと、管理職はせいぜい2割、出来れば1割程度にし、その分、役割給やボーナスとして序列に関わらず分配する仕組みが望ましい。


   そしてそれは、同社が既に昨(2014)年に発表している「年功序列の廃止と職務給への一本化」と見事に合致するものだ。それが間に合うかどうかは分からないけれども、同社が進むべき道の一端に立っていることは間違いない。


   たぶん、これからもメディアや一部OBは、「脱アメリカ型、原点回帰」の流れでベテラン優遇や終身雇用を推すだろうが、ソニーには気にせずどんどん先に進むことをおススメしたい。(城繁幸)

人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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