人間はそれぞれ自分が大切にしたいこと、すなわち「価値観」をもっている。
同じ年齢で、同じ業界の同じ会社で同じように仕事をしてきた人でも、人によって考え方も判断基準は異なるものだ。
前回は、無意識のうちにパワハラをしてくる「ブラック上司」を採り上げたが、その特徴に当てはまらないものの「ブラックだ!」と感じてしまう上司は世の中に多いだろう。
今回は、そんな困った上司をタイプ別に大きく3パターンに分けて、それぞれの特徴を分析していきたい。
(1)理詰めでクール「ロジカル上司」
(2)「気合で頑張れ!」が口グセ「精神論上司」
(3)無責任で事なかれ主義「無気力上司」
ではみていこう。
(1)「ロジカル上司」への対処法
【傾向と特徴】
・いつも冷静で論理的
・意思決定は早い
・すべて数値化して考え、表現する
・ルールを守る
・好き嫌いではなく、客観的かつ公正に評価する
【注意点】
・常にクールで落ち着いているので、冷たい印象を受ける
・何事も合理的に、割り切って判断する
・自分の持つ結論に自信があり、それを絶対と考える
・他人の気持ちや思いにはあまり配慮がない
・アドバイスのはずが、静かにツメられている感じになる
【口ぐせ】
・だから何?
・なんでそう思うの?
・具体的にはどういうこと?
【地雷】
・こんな感じじゃないかと思うんですよね~
・みんなそう言ってますよ
・イメージ、これがいいんじゃないでしょうか。直観ですけど
【ウケるセリフ】
・今回の提案の結論は○○です。根拠は3つあって、具体的には・・・
・調査の結果、対象者の86%が賛成との反応でしたので、実施したく考えます。
・●●部長の命令です
【分析】
常にクールでロジカル。思考様式は理系的で、数字やデータを多用。機械的で冷たい印象であることが多く、苦手な人にとってはとっつきにくく感じられるが、好き嫌いといった個人的な感情で判断しないため、評価としてはフェアである可能性が高い。
「具体的な根拠とロジック」に基づいて判断し、自分の意見に強い自信を持つ人が多い。そのため話には納得感があり、「上司の上司」からも信頼されることが多い傾向。
自分に自信がある一方で、相手の気持ちや思いに対しては比較的無頓着で、自分と違った視点や考え、やり方を受け入れにくいこともある。人によっては、細かいことまでネチネチ追求するタイプになってしまうことも。
【対策】
もっともてっとり早いのは、あなた自身が「ロジカルさ」を身につけて、ロジカル上司との「共通言語」を持つことだ。もうこれだけで、上司とは連帯感のようなもので結ばれるはずである。
ぜひ普段から、ロジカルなコミュニケーションを心がけよう。あなた自身の口グセとして「私としてはこう考えます。なぜなら・・・」「結論から言うと・・・」「ポイントは3点あって、具体的には・・・」とつけてお話されることをお勧めする。
このタイプとは生理的に合わない、と思われる方もおられるだろうが、往々にして「デキる上司」と呼ばれる人は、このロジカルさを身につけているものだ。あなた自身の思考パターン、行動パターンが広がるチャンスでもあるし、相手が「ロジカル上司」かどうかに限らず有効な方法ですから、ぜひやってみて頂きたい。
(2)「精神論上司」はこんなタイプ
【傾向と特徴】
・やる気はあるが、仕事がデキる人も、デキない人もいる
・難しいことを考えるのは苦手
・部下や後輩の面倒見はいい
・自慢話が大好きで、同じ話を懲りずに何度もやる
【注意点】
・人柄はよいが、熱意がありすぎで空回りすることも
・仕事は行動量でカバーするタイプ。部署として残業が多くなる
・うまくいかない原因が「気合」の有無になりがちで、根本的な問題解決にならない
・部下への指示にロジカルさがなく、クレバーな部下からは軽くみられがち
・頼りにされないと、寂しがる
【口ぐせ】
・気合でやれ!/気合が足らん!
・じゃあ飲みにでも行こうか!
・お前それでもプロか!? 根性がないぞ!
【地雷】
・あ、コレ、私一人でやりますから・・・
・スミマセン、ちょっと微熱があるみたいなんで、今日はお休みさせてください
・飛び込み営業なんて効率悪いやり方より、メールのほうがいいですよ
【ウケるセリフ】
・スミマセンッ!気合が足りませんでしたっ!! 気持ちを入れ替えて頑張ります!!
・他ならぬ○○課長にこそ、私の悩みを聴いて頂きたいんですよ・・・
・私、△△部長のお蔭で、営業の楽しさに目覚めた気がします!
【分析】
気合と根性は確かに重要だが、残念ながらそれだけでは解決できない問題がたくさんある。上司から具体的な解決策を出してくれないことには、経験値が不足している部下や新人としてはどうしたらいいか分からない...という困惑にも繋がってしまうことだろう。
このタイプの上司に共通するのは、マスコミなどで語られる、いわゆる「昭和的価値観」というものだ。「気合と根性はあって当然」のほか、「部下が上司の指示に従わないのはありえない」、「体調管理は自己責任」、「プライベートの時間を割いてでも、自腹を切ってでも、部下の面倒をみるのが上司の役割」、「給与や福利厚生ではなく、仕事そのものが報酬」などといった考え方である。
あなたにとっては受け容れ難いものでも、彼ら上司たちはその価値観の中で育ってきたのだ。まずはそういう前提条件がある、という認識から始めてみよう。
【対策】
このタイプの上司への対処法はシンプルだ。「自分が一生懸命頑張っている姿を見せる」ことに尽きる。とにかく、上司にとっては部下の「一生懸命取り組む姿勢」が可愛いのである。
業績不振の原因はすべて「気合と根性が足りない」。「なぜこんな結果になったのか?」といったロジカルな分析がなされないのを目の当たりにすると、地頭のいいあなたにはどうももどかしく、このタイプの上司を苦手に感じるはずだ。
ここはあえて、これまで「ニッポンのカイシャ」をつき動かしてきた「昭和的価値観」にドップリ浸かって仕事してみるのはどうだろうか。
予算未達成を真剣に悔いる。休暇取得や病欠を「当然の権利」と思わずに、周囲への配慮を示し、「こんな大事な時期に病気なんて・・・くやしい!」という気持ちになってみる。そういったスタンスで仕事をしていれば、上司はもちろん周囲のメンバーまで、あなたの味方になってくれることだろう。
それは決して「社畜」への道を選ぶということではない。「目の前の相手が大切にしている価値観は何か?」「どうすればこの相手を喜ばせられるか?」と考えて仕事をすれこととイコールなのである。これが習慣化すれば、自然に成長もできるようになるだろう。
(3)「無気力上司」の「地雷」とは
【傾向と特徴】
・仕事は遅く、成果も出せない
・意見がコロコロ変わり、指示したことも忘れる
・仕事は丸投げで、責任もとらない
・優柔不断で、はっきりと意思決定をしたがらない
・他人に興味がなく、相談しても有効な回答が返ってこない
【注意点】
・本当に無気力なパターンと、やる気はあるがマイペースのパターンがある
・問題があっても問題と感じず放置してしまうので、周囲はトラブルに見舞われる
・面倒なことは避けたいので、大きなプロジェクトなどには逃げ腰
・基本的にネガティブで、よくわからないものには反対姿勢をとる
・たまに「自由にやれ」と懐が広いところを見せるが、やはり責任はとらない
【口ぐせ】
・ボク、よくわかんないんだよね。まあ、適当でいいよ
・あとはやっといて。よろしくね~
・え!? そんなこと言ったっけ?
【地雷】
・ぜひ、今すぐご決断をお願いします!
・多少リスクはありますが、この新しい企画をやってみたいんです!
・スミマセン、プロジェクトの今後の方向性と私のキャリアについて相談がありまして・・・
【ウケるセリフ】
・○○さんにはラクをして頂きたいんですよ!
・我々で巻き取って進めますので!
・ご指摘ありがとうございます!
【分析】
部下の立場でもっとも対応しにくいのが、この無気力、無責任、保守的なタイプの上司だ。無気力な本人たちにとってはそれが「当たり前」であるから、サボっている意識はない。そんな環境に入ってしまうと、あまりのゆったり感に愕然としてしまうこともあるだろう。仕事に熱くなる自分の方がむしろ浮いてしまったり、頑張れば頑張るほど自分だけに負担がかかり不本意な思いをしたりすることさえあるかもしれない。
この現象は「そんな無気力社員でも養うだけの余裕がある会社」限定であり、成長中の新興企業ではあまり見られない。そんな社員でもクビにならずに済んでいる日本の寛大な労働法制も含め、それなりにいいことなのかもしれないが、「そんなのやってられない!」と感じる人はどう考え、どう行動したらいいのだろうか。
【対策】
対処方法は大きく2つに分かれる。「上司だけが問題」の場合と、「周囲メンバー全員やる気なし」という場合である。まず前者からみていこう。
上司だけが問題と感じるなら、周囲のやる気ある同僚と結託して、自分たちのやりたいように仕事をすればいい。
基本的に無気力上司は「事なかれ主義」で、面倒なことや責任を負うような事態を避けたがる。逆に言えば、その部分を自分たちで担保すれば、「じゃあ、好きにやってよ」となる可能性が高いのだ。ぜひ、実現したい仕事のシナリオを創り、実行していこうではないか。
「それは難しい」とか「前例がない」みたいな、上司が言いだしそうな「ネガティブで保守的な批判」には先手を打って、「その際のリスクは・・・」「メリットは・・・」とメンバー全員で説明できれば、「ま、全部やるといってるし、手離れもいいからまあいいか」と判断することだろう。成果があがれば、自分たちの部署の実績にもなるのだから。
「周囲メンバー全員やる気なし」の場合、もう完全に割り切って、自分中心に過ごすほうがよいだろう。いくら周囲の仕事が遅かろうが、自分のペース、自分のリズムで仕事する。自分なりに仕事を効率化して早めに済ませ、定時になったらさっさと切り替えて自分の時間を楽しむ。それで充分である。
貴重な自分の人生である。思い通りに動かない周囲に憤っていても時間とエネルギーのムダだ。自分自身の成長を志し、広い世の中に目を向けて過ごしていこう。
「身近な人たちから、何を引き出し、学べるだろう」と考えて接してみる
さて、前回記事と合わせ、さまざまタイプの「ブラック上司」をみてきたが、みなさんの上司には当てはまっただろうか。
入りたい会社は選べても、残念ながら配属とか勤務地、そして上司は選べない。すべては巡り合わせで、あなたの長い人生の中、本当に一瞬の出来事でしかないのだが、その運に振り回されて、一喜一憂してしまうのはもったいないことだ。
上司も先輩も同僚も、単なるひとりの人間だ。長所もあれば、欠点もある。上司とか先輩とかは関係なく、あくまで一人の人間として、「身近な人たちから、自分は何を引き出し、学べるだろう」と考えて接してみてほしいのだ。
できれば、「同じ組織のメンバーとして、共通の目標を追う同志」と考えてみてはどうだろう。その上で、あなたから積極的に関わりを持っていくだけでも、日々の楽しさはだいぶ変わるだろうし、5年後、10年後のあなたを大きく変えることになるだろう。(新田龍)