組織をむしばむ「人事の私物化」 だから社員が辞めていく

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   前回お話しした社長による会社の「良い私物化」「悪い私物化」について、別の角度からさらに取り上げます。

   前回は、経費面での私物化に関する事例を紹介しましたが、実は社長による組織の私物化で一番問題になるのは、たいていの場合経費面ではなく人の面、すなわち「人事の私物化」です。部下、社員、スタッフの好き嫌い、中でも依怙(えこ)贔屓が露骨に分かってしまうような「人事の私物化」は、組織運営上思わぬ悪影響を及ぼすものです。

譜代大名と外様大名

だから人が辞めていくのよね~
だから人が辞めていくのよね~

   以前の話ですが、クライアント先で小売チェーン店経営D社の社長から電話がありました。

「君もよく知っている取締役のR営業部長が急に辞めたいと言い出した。社長と考えが合わないので、としかその理由を言わない。仕事もやりたいようにやらせているのに、どうも合点がいかないのだよ。直接話を聞いてみてもらえないだろうか」

   R部長に直接連絡をとり、会って話を聞くことにしました。聞けば、処遇にも給与にも不満はない、ただ他の人材評価に納得がいかないのだと。具体的には、同じ取締待遇のN総務部長の事でした。

「取締役としての意識がない、ふさわしい仕事もしていない、なのに社長の1番のお気に入りというだけで、同じ取締役に処遇されている。彼の仕事ぶりについて問題指摘しようとすると、社長は余計なことを気にしないでお前は自分の仕事に専念しろと彼をかばうのですから、やる気もなくなります」

   N部長は私もよく知る人物ですが、創業時から社長を手伝ってきた、言ってみれば『一の子分』。確かに、中途で同業からスカウトされたR部長の方が仕事ははるかにできるでしょうが、社長からすれば仕事ができる分だけ油断がならないと思っているのも事実。『裏切る心配のない』N部長をそばに置いてR部長をけん制する思惑もあるように見受けました。徳川幕府における譜代大名と外様大名の扱いの違いにも似ているように思えます。

使い込み社員をかばった結果・・・

   社長に私が聞いたR部長の本音を伝えると、全く納得がいかない様子でした。

「R部長には、君がナンバー2だと伝えてある。給与もRの方が多いことも知ってるはずなのに、なんでそんなことを言うのだろう」

   社長としてはそれなりにバランスをとっているつもりなのですが、実力でナンバー2を勝ちとったR部長からすれば口頭でナンバー2と言われても、付き合いが古く社長の覚えが良いだけで側近的な役割を帯びて取締役の座に座っているN部長の処遇は腹立たしく、逆に自分が正当に評価されていないと感じて仕事に対するやる気さえもそがれてしまったのです。「人事の私物化」の弊害と言えるでしょう。

   営業の根幹をグリップするR部長に辞められては会社が回らなくなるD社。社長はR部長を常務にすることで、N部長との格差を周囲からも目に見るようにして、ひとまずその場はおさめました。しかし、問題は解決していないので、いつまた火を吹くかもしれません。

   機械商社T社では「人事の私物化」が、実際に会社経営を狂わせてしまいました。40代営業課長の百万円を超える経費使い込みが発覚し、大問題になりました。就業規則から見ても当然懲戒解雇が妥当だったのですが、社長の意向は「H課長は営業の中心人物として長年よくやってくれているし、一時の気の迷いに違いない。使い込みは賞与で分割返済させて、もう一度チャンスをやりたい」、との温情対応でした。

   事件の話は社内に広まり、社員は皆、H課長が解雇されるものと思っていました。しかし社長は、自分の考えを押し通しました。社内では「H課長は社長一のお気に入りだから、温情処分になった。あれじゃ社員に示しがつかない」との陰口が横行し、課長の職場復帰によって会社全体をよどんだ空気が包み込みました。

取引停止や免許はく奪につながった例も

   約1年後に事件は再び起きました。今度は、H課長が取引先購買担当と結託して相手先に水増し請求し、水増し分を山分けしていた事が発覚したのです。総額数百万円。相手先は準大手で、事件に関係した購買担当者は即刻解雇されました。体面上もあり、今回ばかりは社長も「人事の私物化」を押し通すことはできず、H課長も解雇されました。

   会社は多額の損失を負い、相手先からは取引停止を通告されました。先方は三本指に入る大口取引先でT社のダメージは大きく、一気に赤字へ転落。この件が響いて以降業績は下降線をたどり、会社は銀行管理を経て人手に渡るという悲しい結末に至ったのです。

   他にも、露骨すぎる依怙贔屓人事に次々と優秀な社員が辞めてしまい、主力事業の部門閉鎖に追い込まれた会社。成績優秀社員の社内セクハラ事件をお咎めなしにしたがためにその後同じ社員が警察沙汰になる事件を起こし、大手代理店免許をはく奪された会社もあります。

   「人事の私物化」、特に社長の依怙贔屓は思わぬ大きな落とし穴が待っているのです。経営の三資源「ヒト・モノ・カネ」の私物化の中でも、特に「ヒト」の私物化はすべて「悪い私物化」であると認識して、公平で公正な「ヒト」の管理を心掛けたいところです。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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