取引停止や免許はく奪につながった例も
約1年後に事件は再び起きました。今度は、H課長が取引先購買担当と結託して相手先に水増し請求し、水増し分を山分けしていた事が発覚したのです。総額数百万円。相手先は準大手で、事件に関係した購買担当者は即刻解雇されました。体面上もあり、今回ばかりは社長も「人事の私物化」を押し通すことはできず、H課長も解雇されました。
会社は多額の損失を負い、相手先からは取引停止を通告されました。先方は三本指に入る大口取引先でT社のダメージは大きく、一気に赤字へ転落。この件が響いて以降業績は下降線をたどり、会社は銀行管理を経て人手に渡るという悲しい結末に至ったのです。
他にも、露骨すぎる依怙贔屓人事に次々と優秀な社員が辞めてしまい、主力事業の部門閉鎖に追い込まれた会社。成績優秀社員の社内セクハラ事件をお咎めなしにしたがためにその後同じ社員が警察沙汰になる事件を起こし、大手代理店免許をはく奪された会社もあります。
「人事の私物化」、特に社長の依怙贔屓は思わぬ大きな落とし穴が待っているのです。経営の三資源「ヒト・モノ・カネ」の私物化の中でも、特に「ヒト」の私物化はすべて「悪い私物化」であると認識して、公平で公正な「ヒト」の管理を心掛けたいところです。(大関暁夫)