総務省が先日(2015年5月1日)発表した3月分労働力調査(速報)によると、非正規労働者の数は、前年同月比で9万人増でした。2月分調査では、比較可能な14年1月以降で初めて減少(15万人)し、注目を集めていました。また、正社員は14年12月以降、4か月連続で増えました。
さて、前回は契約社員の「無期雇用」と「正社員化」との違いについて、お話をさせていただきました。今回のテーマは、「雇止め」です。近く行われる予定だった契約更新で、規程の年数以上働くことになるので、正社員になれると期待していたにも関わらず、突然、契約を打ち切られてしまいそう――そんな契約社員のエピソードを基に考えていきます。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)
あと半年で、というタイミングで・・・
うちの会社では、契約社員は半年更新で、「3年間働いたら正社員登用」と聞いていました。
わたしは、契約社員として今の会社に勤めて2年半になります。来月が更新月なので次回の更新で3年働くことになり、半年後には正社員になれると期待をしていました。ですが、先日、契約更新の面談をした際に、
「状況が変わって契約の更新が出来なくなった」
と言われました。「理由は会社の業績の悪化であって、君のせいではない。申し訳ない」と誠意のある謝罪をされたので、その場では怒ることもできなかったのですが、以前同じ会社で契約社員として働いていた友人と久しぶりに会った際に、「それが、この会社の手口だ」と言われました。
「3年後には正社員に!」という言葉を武器に契約社員を募集し、3年経つ前に正社員にしなくて済むよう契約を打ち切るというのです。契約社員なので、いつ切られても仕方ないとも思いますが、こんなセコイ手を使うなんて・・・騙された気分です。
「3年後には正社員に」を信じて頑張ってきたのに、やはりわたしは辞めないといけないのでしょうか。(実際の例を一部変更しています)
弁護士解説 「雇い止め」を無効にした判例がある
契約社員の方は、雇用に対する不安を常にかかえていますよね。ご相談者の場合、3年間働けば正社員になれると思って今まで頑張ってきたにもかかわらず、2年半で契約が打ち切られてしまいそう、とのことで納得いかないのは当然だと思います。
残念ながら、2013年4月1日以前に開始している契約社員の方は、「自分を正社員にして欲しい」と会社に要求できる法律上の権利はまだありません。ご相談者の場合、契約開始は2012年末ごろのようですね。
しかし、正社員化の問題は別にして、契約の更新自体は、ご相談者が希望したにもかかわらず、会社が更新を拒絶してきた場合は、会社と争って勝てる可能性があります。いわゆる「雇い止(ど)め」と言われる問題ですね。
雇止めに関しては、下記の内容を考慮し無効にしてきた判例があります。
(1)雇用が一時的・季節的なものではないか
(2)契約は何回更新したか
(3)通算どのくらい勤務してきたか
(4)更新手続きがずさんで、いい加減ではなかったか
(5)雇用継続の期待を持たせるような言動や制度があったか
(6)継続雇用に対する労働者の期待はどの程度だったか
また、それらの判例をうけて近年、労働契約法19条でほぼ同内容の条文が制定されました。
今回のケースでは、仕事の内容が臨時的ではなく、更新の回数も4回と多く、雇用の通算期間も2年半と、短期とは言えないという事情があります。それだけでなく、最初から「3年後には正社員に!」などという言葉で契約社員を募集していたという経緯もありますので、ご相談者が特に会社で問題を起こしていなければ、雇止めは無効と判断される可能性はあります。いくら誠意ある謝罪をされたとしても、以前より3年になる手前で雇止めを繰り返してきたという会社なのであれば、ご相談者には、ご自身の立場を守る為に争う権利があります。契約社員だから・・・と諦める必要はありませんよ。
また、前回お話しさせていただきましたが、2013年4月1日以降に開始した有期の労働契約が通算5年以上であれば労働者からの申し込みにより、無期の労働契約に転換できるようになりました。このルールは、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し、労働者の雇用の安定を図ることを目的としたものです。
弁護士として、この法律によって少しでも正規雇用の方が増えることを願っています。
ポイントを2点にまとめると、
(1)雇用状況や更新回数、通算期間、更新手続きのずさんさにより、雇止めを無効にした判例がある。
(2)雇用継続に対する期待の持たせ方や度合いも考慮される。