「ブラック企業」のレッテルにだまされるな 「自分にとっての優良企業」を探す方法

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   この4月から新たに社会人となった皆さん、新たな環境で仕事をスタートされた皆さん。職場や仕事には慣れただろうか。楽しく過ごしていけそうだろうか。

   まずは、皆さんのこれからの生活が実り多きものであることを祈念申し上げる。

   会社とは、組織とは、良くも悪くも自分を高めていける場所である。

   仕事で成果を出すことで、周囲や顧客の期待に応えられれば、あなたは感謝され、周囲から必要とされていることが実感できるだろう。もちろん、金銭的な報酬を得ることもできる。これは「良い」方向だ。

どこかで乗り越える必要がある

「自分にとっての優良企業」とは
「自分にとっての優良企業」とは

   一方で、「悪い」ことも起こり得る。思い通りの成果を出せなかったり、人間関係で苦慮したり、「こんなはずじゃなかった・・・」「ブラック企業だ・・・」などと思い悩むこともあるはずだ。

   しかし、その一見「悪い」ように見える状況を、「失敗」の一言で片づけるのか、今後に活かせるのかはあなた次第である。

   私自身にも経験があるが、思い通りにいかない状況に幻滅して別の環境を選んでも、またそこでも以前同様の「思い通りにいかない状況」に直面するものだ。あなたはどこかで乗り越える必要がある。

   乗り越えるなら早い方がいいし、乗り越えた先では「なんだ、こんなことで苦慮していたのか」という爽快な気付きと、あなた自身の成長を感じられることだろう。

   会社や組織では、あなたの身に起こる諸々のことを通じて、そういった気づきや成長を得ることができる。自分を高め、鍛えられる場所として、これほど良い所はまずないといっていいくらいだ。共に仕事を愉しんでいこうではないか。

当事者ではない周囲の意見に振り回される必要はない

「ブラック」も捉えかた次第――

   上記メッセージは私の率直な気持ちではあるが、キレイゴトと感じる方もおられるだろう。

   一生懸命仕事に取り組んでいこうとする人の意欲を打ち砕くような、悪意あるブラック企業やブラックな上司は実際に存在するからだ。

   しかし、いつもこの連載上で表明しているように、「ブラック」と感じる基準はその人の価値観によって異なる。

   莫大な赤字を垂れ流し、平然と大量リストラをやっていても、「大手有名企業」というだけで応募者が殺到する会社がある。一方で、高収益で成長していても、「ハードワークでプレッシャーが厳しそう」というイメージから、ブラック企業と呼ばれる会社もあるのだ。

   どちらが良い、悪い、というお話ではなく、あくまで個々人が何を重視するのか、という価値観の問題であり、働く当事者ではない周囲の意見に振り回される必要はない。もしあなたが入社後に「ブラック企業かも・・・」と考えたり、周囲から自分たちの会社をブラック企業呼ばわりされたりしたときは、「自分は何を重視してこの会社/仕事を選んだのか?」と思い返して頂きたい。

   「いい会社」と「ブラック企業」は表裏一体なところもあり、こちらを重視すればあちらが立たない、といったことが起こり得る。最近のニュースを引き合いに出しながら、「何をもって『いい会社』とするか」「どんな要素があれば『ブラック企業』なのか」について考えてみよう。


<顧客にとっていい会社>

・リーズナブルな商品、サービスを提供している
・高品質な商品、サービスを提供している
・対応が迅速で丁寧
・365日、24時間営業している
・多少の無理難題は聴き入れてくれる


<株主にとっていい会社>

・儲かっている
・効率良く経営できている
・借金が少なく、財務体質が強固
・継続的に成長している
・差別化できる強みや技術がある

どんな切り口で捉えるかによって評価は変わる

   この2つの要素を兼ね備えている企業として筆者の頭にすぐ浮かぶのは、「くら寿司」を運営する「くらコーポレーション」や、「ドン・キホーテ」を運営する「ドン・キホーテホールディングス」だ。

   「くら寿司」は「サイドメニュー強化」の戦略が奏功し、2014年10月期の連結決算で純利益が過去最高を更新した。15年10月期でも連続で最高益を見込んでおり、15年3月に発表された第1四半期も好調な数字だった。

   「ドン・キホーテ」も業績好調で、25期連続(2014年6月期まで)で増収増益中だ。事業環境が厳しい小売業で、この業績は偉業といえるだろう。

   同社は業界に先駆けて深夜営業や海外向けのPRをおこない、外国人観光客の取り込みを地道に継続してきた。結果として、海外の日本観光ガイドブックにドン・キホーテの店舗が観光地として紹介されるに至ったことで、過日の訪日観光客による「爆買い」需要も取り込むことができたのである。

   2社ともユーザーの支持は厚く、業績も好調だ。しかし、業界ならではのハードワークというイメージが根強いのか、ネット上で「ブラック企業」と指摘されることもある。何を重視するか、どんな切り口で捉えるかによって、同じ企業でも評価は真っ二つに分かれるのだ。

   それでは、従業員からみた視点の場合はどうか。


<従業員にとっていい会社>

・やりたい仕事ができる
・休みが取りやすく、残業が少ない
・社風がいい
・ブランドや知名度がある
・給料が高い

「ホワイト企業」を辞めたがる人の理由

   このように、労働・職場環境が整っており、福利厚生も手厚い企業のことを総称して俗に「ホワイト企業」と呼ばれる。こちらもブラック企業同様、明確な基準は存在しないが、定量化できる指標として「離職率が低い」という項目が挙げられるので、直近発表された「新入社員に優しい『ホワイト企業』トップ300」(東洋経済オンライン、2015年3月19日)を基に考察してみよう。

   このランキングでは、「新卒者が3年後にどれだけ在籍しているか」という「新卒3年後定着率」を基に、定着率の高い会社を「新入社員に優しいホワイト企業」と定義して発表している。その中で、3年間誰も辞めていない定着率100%の会社は116社。300位の会社でも定着率は93.3%あるから、ランクインした企業群は相当「働きやすい」会社といえるだろう。

   しかし、この判断基準にも落とし穴はある。名誉のため具体的な企業名は明らかにしないが、これら300社の中には、私がこれまで「もう辞めたい・・・」と相談に乗った方が在籍していた企業が31社存在していた。

   それぞれ業種も仕事内容も、また相談時期も異なるため一概には言えないが、彼らが訴えていた不満に共通していたのは、次のような点であったことを思い出す。

「仕事はラクだしプレッシャーもほぼないため居心地は良いが、自分が成長している実感が全く持てない」
「最終顧客と遠い。掛け声は『顧客重視』だが、社内会議の資料作成に多くの時間と手間をかけてばかり。普段の会話にも顧客が出てきたためしがなく、自分たちが価値提供できている実感が持てない」
「説明会ではやたら『変革』を連呼していたのに、実際に新たな提案をおこなっても、様々な理由をつけて却下される保守的な社風」・・・

「誰にとってもいい会社」は存在しない

   このように、「誰にとってもいい会社」は存在しない。あるのは「自分にとっていい会社」だけなのだ。「何をもって『いい』と考えるのか?」「この会社での仕事経験は、自分の将来に資するものなのか?」というふうに、自分で自分が大切にしたい判断基準を分かっておくことが重要である。

   したがって、「多少ハードワークでプレッシャーも厳しく、世間から『ブラック企業』とも呼ばれているが、自分はそんな環境で成長したいし稼ぎたい。だから『ブラック企業』を選ぶ」という選択肢もあってよい。

   もちろん筆者は、違法企業への就労を奨励しているわけではない。ただ、世間がいうところの「ブラック」をそのまま真に受けて、思考停止になることは避けてほしいのだ。

   その会社があなたにフィットしていて、長く勤められるようならそれでよし。

   もし、何かしらミスマッチがあって転職することがあったとしても、あなたの「ブラックと呼ばれるくらいのハードな環境で鍛えられた」という経歴は、転職市場において立派に機能するはずだ。ぜひ、自分自身の価値観を大切にして、仕事をしていってほしい。(新田龍)

新田 龍(にった・りょう)
ブラック企業アナリスト。早稲田大学卒業後、ブラック企業ランキングワースト企業で事業企画、営業管理、人事採用を歴任。現在はコンサルティング会社を経営。大企業のブラックな実態を告発し、メディアで労働・就職問題を語る。その他、高校や大学でキャリア教育の教鞭を執り、企業や官公庁における講演、研修、人材育成を通して、地道に働くひとが報われる社会を創っているところ。「人生を無駄にしない会社の選び方」(日本実業出版社)など著書多数。ブログ「ドラゴンの抽斗」。ツイッター@nittaryo
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