先月、日本生命保険が、フルタイムで働く契約社員1000人強を無期雇用に切り替え、希望すれば65歳まで働けるようにする方針を固めたというニュースが話題となりました。契約社員として働く労働者にとっては勇気のもらえる内容だったかと思います。
ただ、気になるのは「無期雇用」という言葉ではないでしょうか?無期雇用は正社員登用と一緒ではないかと思われる方も多いと思います。そこで今回は、5年間働いた契約社員のエピソードを基に、「無期雇用」について考えていきます。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)
もう5年、契約社員として働いている
わたしは契約社員として(2010年から)5年間、今の会社で働いています。
仕事自体に不満は特にないですし、職場の人間関係も良好なので、ずっと続けたいと思っています。ただ、今まで何度も正社員登用の希望申請を出してきたのですが、正社員にしてもらえる気配がありません。契約が切れたら次更新されるかどうか分からない不安定な今の雇用形態では将来的に不安です。
そんな中、友人から「最近法律がかわって、契約社員は5年経ったら、もう期限は関係ないはずだよ」と言われました。これは、「5年経った」わたしは正社員になることができる、ということなのでしょうか?(実際の事例を一部変更しています)
弁護士解説 「無期労働契約」イコール「正社員」、ではない
正社員と契約社員の大きな違いは契約期間に定めがあるかどうかです。契約期間に定めがある契約社員だと、次の更新がされるかどうかが不確定なので、将来のことを考えると不安になりますよね。その気持ち、よく分かります。
さて、2013年4月1日から、(改正)労働契約法で、有期労働契約が繰り返し更新されて「通算5年」を超えたときは、労働者の申込みによって、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるようになりました。無期労働契約であれば、契約満了で更新しないということが起こりませんので、将来の見通しも立てやすくなりますね。
契約社員は通常この有期労働契約でしょうから、一定の条件の下で、無期労働契約に転換できます。 おそらく、ご友人が言ったのは、このことだと思います。
ただし、この法律では、「通算5年」の部分について、2013年3月31日以前に開始した有期労働契約は通算契約期間に含めないということになっています。つまり、無期労働契約への転換が施行された2013年4月1日以降の契約から通算5年、契約社員として同じ会社で働き続ければ転換することができるということです。
ひとつ例を出して説明しますと、
2013年4月1日から2016年3月31日までの3年契約のケースの場合、2016年4月1日から2019年3月31日までの期間で契約を更新すると、この時点で通算5年を超えることが確定となります。
それにより、2016年4月1日以降、無期労働契約への転換の申入れができ、2019年4月1日以降は無期労働契約に転換されることになります。
ただ、無期労働契約へ転換すると正社員になるのかというと、そういう訳ではありません。無期労働契約への転換の場合、特に何もなければ、賃金を含めて、勤務条件は直前の有期契約と同一になります。
今回のケースで、無期労働契約に転換できるかというと、残念ながら、おそらく現時点では条件を満たさないと思われます。不安定な状況で不安だとは思いますが、条件を満たすにはもう少し更新を継続していく必要があるでしょうね。なお、労働契約法には、通算の雇用期間が長く、更新回数が多い方の雇用継続を定める条文もありますが、またの機会に解説いたしますね。
ポイントを2点にまとめると、
1:2013年4月1日から、有期労働契約が繰り返し更新されて「通算5年」を超えたときは、労働者の申込みによって、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるようになった。
2:ただ、無期労働契約へ転換すると正社員になる訳ではなく、特に何もなければ、賃金を含めて、勤務条件は直前の有期契約と同一になる。