トップの言葉が「会社の慣性」に与える影響は大きい
さらに申し上げれば、社長の管理者教育に対する関心の薄さを察知した段階で、私の危機察知センサーが起動しました。すなわち、社長を研修プログラムに同席させ管理者たちと共に研修のムードの中に引きずり込むことで、社長がリードするさらなる上位慣性である「会社の慣性」による「職場の慣性」や「個人の慣性」の変化反応への阻害を防止しようと計ったわけなのです。それだけに、緊張感を失わせた社長の一言はあまりに残念でした。
私は研修の講師役を務める中で、社長の冒頭の言葉を打ち消すために必死の思いで努力しました。「社長は、御自身の責任も感じられていて半分はテレ隠しでおっしゃっていたのでしょうけど、私は皆さんが実年齢や組織年齢に関係なく、必ず変わることができると思っています」といった、ある種暗示に近い語りかけを繰り返したのです。しかし残念なことに、この日の研修で管理者の意識を変える手ごたえはほとんど得ることができませんでした。それほどまでに、トップの言葉が「会社の慣性」に与える影響は大きいのです。
研修を終えた私にNさんが話しかけてきました。
「最初の社長の話が、せっかく企画していただいた研修をぶち壊しにしちゃいましたね。本当に申し訳ないです」
私が必死に社長の話を打ち消そうとしていたことにNさんは気づいてくれたようでした。それがせめてもの救いです。しかし問題はこの先どう対処していくかです。
Nさんと再び一から話し合いをしました。組織における3段階の慣性の話もしました。変革を起こすには、例え大きな壁にぶち当たろうとも折れない気持ちと歩みを止めない愚直な努力が必要だという意識も確認しました。そして結論として、Nさんが役員、部長クラスに組織の慣性変更に向けた管理者変革の必要性に対する理解を日常から求めていくこと、研修プログラムは当初の予定通りすすめていくこと、社長にはなんとしても研修への同席を実行してもらうこと、などを決め、いきなり躓いた研修の再スタートを決意しました。
G社での研修を通じた管理者の変革に向けた最大の難関は、「会社の慣性」を左右する社長自身の言動を、部下たちの変貌ぶりによって果たして動かすことができるかどうかです。道は険しいですが、この進捗はまたこの場を借りて報告していきたいと思います。(大関暁夫)