恐るべし「組織慣性の法則」 だから「管理者が育たない」

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   管理者が育たないと言う総務担当役員Nさんからの相談で、管理者研修実施の社長宛提案を依頼された中堅不動産管理業G社。応諾をいただく目的で初対面の社長を交えたミーティングを開催し、Nさんの推薦の弁を受け期間約1年の研修企画は取り立てて大きな要望もなく社長の了解を得ました。しかし、その反応に少なからず、トップの教育に対する関心の薄さを感じた私は、「社長も必ず研修に同席して欲しい」とのお願いをしました。

   研修当日のこと、嫌な予感はしてはいたのですがG社に到着早々、社長から「大関さん、今日は急用ができて出かけなければいけなくなったので、初回に際して私から受講者に研修受講の心がまえだけ話して失礼します」と、いわゆるドタキャンが告げられました。そのことだけでも、トップの教育に対する関心の薄さを十分すぎるほど実感させてはくれたのですが、さらに社長の受講者に対する話がこれに追い打ちをかけることになります。

組織の慣性には3段階がある

組織に働く慣性の法則とは
組織に働く慣性の法則とは

   「ベテランの管理者の皆さんが今更研修を受けて何か変われるのか、私はその点はいささか疑問なので皆さんに多くを期待していませんが、人事担当のN取締役からの強い要望もあってダメ元で今回、管理者研修をお願いすることにしました」のくだりではじまった社長の挨拶。もしかすると社長のウケ狙いもあったのかもしれませんが、聞いている受講者側もこの話を聞いてニコニコと楽しそうに受け流しており、私は唖然としてしまいました。

   私が事前にNさんから聞いていた話で、「うちの管理者たちは外部の研修を個別で受けに行かせると、戻った直後は執務姿勢が改善されるのだけど、それが長続きしない」ということがあり、管理者が個別で研修を受けても他の管理者が従来通りでは改善ムードが浸透しないので社内で一斉に研修を受講させようというのが、今回の狙いだったのです。しかし、社長の冒頭の一言ですべて台無しになってしまった、そんな気にさせられました。

   活動している組織では、外部からよほど大きな力が働かない限りなかなかその染み付いた風土を変えることは難しい。私はこれを、「組織慣性の法則」と呼んでいるのですが、組織の慣性はそれほど変化しにくいものなのです。

   組織の慣性には3段階があります。「個人の慣性」「職場の慣性」「会社の慣性」の3つです。個々人が研修を受けて気づきを与えられることは「個人の慣性」に変化を及ぼすことなのですが、この慣性はより上位の慣性によりいとも簡単に元に戻されてしまうのです。

   例えば、先の外部の研修を個別で受け刺激を受けてきた管理者がほどなく元に戻ってしまうのは、外部の力により「個人の慣性」に変化が生じたものの、管理者全体の意識やムードと言ったより強い力を持った「職場の慣性」により元に戻されてしまうわけなのです。だからこそ今回は、管理者全体の意識やムードを緊張感ある集合研修と言う外圧によって一斉に変えることで「職場の慣性」そのものに変化を与えようと言うのが狙いでした。

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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