大塚家具「父娘バトル」で決定的に欠けていたもの

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   世間を騒がせた大塚家具の父娘の経営権争いは、株主総会において娘である現社長の提案が多数支持されることで勝利し、とりあえずの落着を見ました。

   私はこの一件をオーナー企業の経営のあり方を問う重要なケーススタディであると捉えており、どうしても、とある先輩経営者の意見を聞いてみたく、同社株主総会の直後にお目にかかってお話をうかがうことにしました。

過去に2回、新旧経営者間でかなり大きなせめぎ合い

「経営のバトン」をいかに渡すか
「経営のバトン」をいかに渡すか

   私が連絡をした先輩経営者は、銀行時代からお付き合いのある中堅商社の2代目F氏です。会社の創業は実父である先代。現在F氏御自身は3代目であるご子息に社長の座を譲って代替わりし、経営の一線からは退いて会長として悠々自適な毎日を過ごされています。

   F氏は、まじめで大変勉強家の経営者です。会社を大きく成長させてきた、内外にバランスのとれたマネジメントの力量は大変素晴らしく、私は実践マネジメントの師と仰ぎ時折うかがってはいろいろなお話を聞かせていただいています。

   今回なぜ真っ先にF氏の意見を聞きたかったのかと言えば、以前うかがったお話で御自身が先代から経営を引き継いだ際と、3代目に社長の座を譲った直後の2回にわたって、経営の方針を巡って新旧経営者間でかなり大きなせめぎ合いがあったと聞いていたからです。

   F氏は今回の件について、開口一番こう話されました。

「困りましたね。娘さん、論は正しくとも義が間違っているのではないかと、人ごとながら心配です。会長であるお父様もなぜこうなる前にことを鎮められなかったのか。人前で親子が罵り合いをするなど、誰も望むはずもありません。本当に悔やまれることでしょう」

経営における「論と義」とは

   経営における論と義?さらに詳しい解説を聞きました。

「今は本やセミナーから、マネジメントの理論はたくさん手に入る時代です。30年ほど前、私の時代がそのハシリでした。ドラッカーあたりの翻訳本が世に出され経営戦略などという言葉が使われ始めたのも、ちょうどその頃。私も父の古臭いやり方に反発して、理論武装して随分闘ったものです。絶対に自分が正しいと譲りませんでした。これが論。しかし、論が正しいだけで優秀な経営者にはなれないと、父に諭されたものが義だったのです」

   論とは理論の論であると分かります。では義は何であるのか。

「分かりやすく言うなら、義理人情の義です。正確には、儒教に言うところの正しい行いを守ること、それが義。義には利という反対語があって、それは自己の欲求を表すものである、と言えばさらに分かりやすいでしょうか。子は親の庇護なしに独力で育ったわけではありません。育った後にこそ、親への義を欠いてはいかんのです」

   父から社長の座を譲られた当時に、理論先行で新しいビジネスへの展開を主張するF氏に、父は「ビジネスでは内外に義を欠くな」「義を払いつつ次に進め」と教えたそうです。義の基本にあるものは、先人を敬う気持ち、身近なところで言えば親を敬う気持ちを忘れないこと。オーナー企業における内なる義とは、先代を敬うことに他ならないのです。

   「何を言っているんだ、時代遅れのポンコツめと思いましたよ」とF氏。氏は自分やり方が正しいことを確信し、尊敬する先輩経営者に同意を求めつつ父を無視してでも新たなビジネスに舵を切ろうと覚悟を決めます。しかし、父を過去の遺物だ老いぼれだと批判するF氏に、先輩は意外な反応を示したのです。

「お父様が長年の努力の末、成果を残されてここまで会社を続けて来られた。あなた自身も、お父様とその会社のおかげで今があるわけです。お父様の言う義というのは、ビジネスにおいて礼を尽くすことの大切さのことです。あなたのやりたいことがいくら正しくとも、礼を失するような義を無視したやり方は必ずどこかでつまずくと思います。よくよく先人には敬意を払って相談をしながらすすめること、それからでも遅くはないでしょう」

次世代経営者の反抗期

   F氏は頭をハンマーで叩かれたような思いだったと言います。「親を親として敬うことすらできない人間に、ビジネス界で生きていく資格はない」と言われたかのようであったと。F氏は理論一辺倒の急激な変革を思い直して、父に敬意を払いつつ時間をかけながら旧来路線の上に徐々に自分のビジネススタイルを築くことに。気がつけば父の時代よりも数倍の会社規模に成長させることができたのでした。

「その四半世紀後に、今度は息子から同じ仕打ちを受けるわけです。親父はマーケティング音痴の過去の遺物だ、ポンコツだとね(笑)。経験で勝てない分を理論で打ち負かそうとするうちに、義を忘れてしまう。年老いた父からバトンを受ける次世代経営者の反抗期です。子は、親相手だからこそ遠慮なしにやり過ぎてしまう。父は親として感情的にならずにこの反抗期を受け止め、分かるまで義を教え続けるしかないのです。2代目がダメにする、3代目が会社をつぶすと言うのは、この義を失うからに他なりません」

   紆余曲折を経て義を受け継いだ3代目は、順調に業績を伸ばしています。会社を先代から引き継ぐ、あるいは次代に経営のバトンを渡す、双方の立場での経験を踏まえたF氏のお話に、大塚家具はじめ我が国オーナー企業の事業承継のお悩み解決を示唆する策を見た気がしました。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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