内定辞退したら「予定していた研修の費用」要求された 支払わないとダメですか?

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   4月に入り、新入社員を迎える時期ですね。書類審査や多くの面接と試験を乗り越え、内定を勝ち取った新入社員の人たちを次に待ち構えているのは、企業の行う研修。今も研修中だよ、という新入社員の人もいるかもしれませんね。

   企業研修の対象は、新入社員に限らず、その種類もさまざまなものがあるようです。外部講師を呼んだり、会場を確保したりと準備も何かと大変そうです。今回は、そんな企業研修をめぐり、入社予定者が入社を取りやめた際の研修費用の負担をめぐるトラブルについて考えていきます。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)

「辞退」なら研修費2万円を出してくれ、と

研修の予定が・・・
研修の予定が・・・

   私は今の会社で働きながら転職活動をしています。

   やはり、働きながらだと転職活動だけに集中することができず、1年間ずるずると転職活動をしてきました。ようやくA社から内定をもらい、今の会社での業務引継ぎもあるため、2か月後に入社するという事で内定を受諾しました。内定承諾書も提出した後、人気も高く入社は無理だと思っていたB社から最終面接の連絡があり、興味本位で受けてみたところ、なんと内定をもらってしまいました。

   もともとA社よりもB社に行きたいと思っていたので、A社の内定受諾から1か月経っていたのですが、申し訳ないと思いながらもA社に内定辞退の連絡をしました。

   A社は内定辞退については受け入れてくれたのですが、入社後予定していた3日間の研修会については、既に準備してしまっている為、社員については会社負担だそうですが、辞退するのであれば、その研修にかかる費用2万円を出してくれと言われました。入社後に研修会があるのは聞いていましたが、費用が発生する程の研修会だとは聞いていませんでしたし、研修も受けないのに2万円なんて・・・。内定を受諾してしまった責任として支払わないといけないのでしょうか。(実際の事例を一部変更しています)

弁護士解説 内定段階でも「労働契約」解約の自由はあるが・・・

   内定の取り消しという問題は、テレビや新聞のニュースでもよく見聞きしますよね。一方で内定の辞退を申し出たら、土下座を要求された、いきなり飲んでいたコーヒーをぶっかけられたなどの話を耳にすることもあります。では、内定の辞退に伴う内定者の法的責任とは実際にどうなのでしょうか。

   まず、内定とは、採用内定通知書等に記載された取消事由(たとえば入社日までに前職を退職できない特別な理由など)が発生した場合、企業により労働契約を解約できる権利が認められた『労働契約』を意味します。つまり、法律上「内定」は労働契約の締結であるというのが、裁判所の考え方です。したがって、内定を辞退することは辞職、つまり労働契約の解約となります。

   そして、労働者には解約の自由があり(民法627条)、通常の会社員が退職願の提出によって会社を自由に辞めることができるように内定も自由に辞退でき、そのことについて責任を負わないというのが原則です。

   ただし、内定の辞退が信義に反し、不誠実である場合は例外です。その場合、企業側に損害が生じていれば法的には企業が損害賠償を請求することは可能になってしまいます。

   信義に反するかどうかは様々な事情を考慮することになります。今回は、内定受諾書を書いていることや、内定受諾後ひと月もたっている事などの事情を考えると、内定辞退は相談者の方の不誠実性に結びつく側面があるとは言えそうです。

信義則に反しているかどうか

   しかし、会社としては、面接に来た就職希望者が他の会社にも就職活動しているということは、百も承知でしょう。また、内定者が内定受諾書を書いたにもかかわらず辞退することがあるのも、経験上よく知っているところだと思います。そして、それは中途採用の場合も同じことです。また、相談者は、B社からの内定をもらった後、すぐにA社に内定の辞退を申し出ており、その時点ではまだ入社までにひと月ほどの期間的猶予がA社側にあったこと等から考えると、相談者の内定辞退が直ちに信義に反し法的責任を負わされるほどの違法性があるとは言えないでしょう。よって、今回のケースでは、2万円の研修費用を支払う必要はないでしょう。

   もっとも、今回の場合と違い、相談者の方がA社に研修費用が発生することを知りながら、B社からの内定をもらった後、合理的な理由もなくA社へ内定辞退を申し出ず、入社直前に辞退したなどであれば、不誠実性は強くなります。その場合には話が変わってきてしまうので、注意してください。

   今回の場合も含めて、基本的には内定辞退の場合は損害賠償の話にはなりませんが、内定者の不誠実性が強すぎると責任を負う可能性もあるので、内定辞退の場合は、誠実な対応を心掛けるようにしましょう。

   

   ポイントを2点にまとめると、

1:労働者には解約の自由があり(民法627条)、通常の会社員が退職願の提出によって会社を自由に辞めることができるように内定も自由に辞退でき、そのことについて責任を負わないというのが原則になる。

2:基本的には内定辞退の場合は損害賠償の話にはならないが、内定者の不誠実性が強すぎると責任を負う可能性もあるため、内定辞退の場合は、誠実な対応を心掛けたほうがいい。

   

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岩沙好幸(いわさ・よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業後、首都大学東京法科大学院から都内法律事務所を経て、アディーレ法律事務所へ入所。司法修習第63期。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物が好きで、最近フクロウを飼っている。「弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ」を更新中。編著に、労働トラブルを解説した『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。
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