「履歴書は手書きか」論争に踊らされる就活生 答えはもう出ています

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   今回のテーマは「履歴書・手書き論争」です。

   以前からある論争ですが、堀江貴文さんがコメントして、再燃しました。改めて検証してみたいと思います。

匿名ブログ「手書きは採用候補に入れたくない」が発端

手書き?PC作成?
手書き?PC作成?

   匿名ブログの3月7日(2015年)投稿記事「履歴書が手書きの奴は採用候補に入れたくない」が事の始まりでした。

   これに堀江貴文さんが、Twitterで「手書きはやめて欲しいね」とコメントしたことで、論争が広がります。

   ブログ投稿の4日後には、Yahoo!意識調査が「手書き履歴書とPC履歴書、あなたが採用担当者ならどちらの人材を選ぶ?」を実施(3月21日まで)。

   結果、約14万件の投票があり、手書き72.2%、PC作成27.8%となりました。

効率が上がり社会が豊かに

   堀江さんはその後、週刊ダイヤモンド2015年3月28日号のご自身の連載「ホリエモン的常識」でも、この手書き問題に触れています。

「個人的には『内容そのもので勝負してくれ』という気持ちがあります。手書きだからといって中身がなければ評価されません。そういった本質的でない部分でいくら頑張っても意味がないということなのです」
「意味のないことに時間を費やすことを全体的にやめていけば、もっと効率が上がって社会が豊かになっていくと思いませんか。そう考えての提言です」

応募の学生側からすれば、PCが楽

   堀江さんの視点は、採用者視点もあるのですが、どちらかと言えば、応募する学生側の視点に立っているようです。

   週刊ダイヤモンドの連載にも、

「みんなが手書きをやめたら採用応募者も楽になると思いませんか」

とありますし。

   学生に取材すると、この堀江さんの意見に賛同する学生が多数でした。

「誤字脱字がないか、あれば書き直さないといけないし、修正液・修正テープもダメなんですよね?そんな手間をかけるくらいなら、もっと他のことで評価してほしいです」
「せめて、手書きかPC作成か、どちらかを指定してほしい」

などなど。

業界別だとITはPC作成が多数

   手書きか、PC作成推奨か、業界別で言えば、PC作成推奨は、IT業界とベンチャー企業など。

   手書き推奨は、商社、メーカー、金融などで、それぞれ多数を占めています。

   そもそも論として、選考書類として提出する履歴書ないしエントリーシート(ES)は、以下のパターンがあります。

1:手書きで提出するよう指定
2:PC作成で提出するよう指定
3:手書き・PC作成の指定がない状態で提出
4:オンラインで受け付ける(リクナビのオープンESなども含む)
5:履歴書・ES以外のものを提出
6:提出物がない(内定後に保管書類として履歴書を提出、なども含む)

   多いのは、3・4ですね。6もエントリーだけでなく、説明会・選考申込みをナビサイトで済ます企業が増えているので、そこそこあります。以前にご紹介した「日本一短いES」(メールアドレスの記入のみ)の三幸製菓も該当するかな。

   手書きかPC作成かをわざわざ指定する1・2は、それほど多くありません。5は総合職だと、ロート製薬(往復はがきで選考受付)、ライフネット生命保険(重い課題)など少数派。

   さて、上記6パターンのうち、4~6の企業は、手書き論争とは無関係なはず。

PC作成では見えないものは

   ところが、無関係のはずの企業関係者、心なしか、PC作成を支持するIT業界関係者の方も、論争に参加している点が興味深く感じました。

   まあ、論争と言うよりは、腫れ物を触られでもしたのか、感情的になっている方も多かったです。

「手書きにこだわる企業自体、古臭いし、そういう指導をする方もおかしい」

   特に、とあるIT業界の偉い方(としておきます)は、私が他で書いた手書き論争記事を取り上げて、

「くだらない。こういうヤツは糾弾しないと」

とのこと。そうか、糾弾されるのか(遠い目)。

   糾弾される前に先にお伝えしておくと、手書き推奨の企業は、PC作成では見えないものを見ようとしています。

   熱意や書類作成能力、一般職採用では文字のきれいさ・丁寧さなども見ています。

   それから、採用コンサルタントの柳本周介さんによると、

「手書きでメンヘルかどうか見ています。メンヘルの学生だと文字が独特の震え方をしているので。もちろん、それを隠そうとしてPC作成にしても、それだけで落ちる、ということはありませんが、そこは面接で少しでも話せば分かります」

とのこと。

究極の手書き・はがき選考のロート製薬

   なお、すでに募集締切済みですが、手書き推奨の究極とも言える企業がロート製薬です。

   その名も、はがき選考。エントリーはナビサイトではなく、往復はがきを使います。はがきの裏面に自由に書く、とのこと。

   同社はナビサイトから撤退して、昨(2014)年までは電話でのみ受け付けをするなど、独自の手法を取ってきました。それが今年ははがき選考。特に指定はありませんが、手書きでないと書ききれないわけで、これは究極の手書き推奨企業と言っていいでしょう。

「高いハードルではありますが、ヒョイと飛び越えてもらえると嬉しいですし、私たちも復信をお返しするのを楽しみにしています」(同社・採用サイト)

理想論先行が陥る罠

   堀江さんや、IT業界関係者などは、手書きを推奨する企業が見ようとする、熱意などを否定されるかもしれません。

   もちろん、それはそれで一考に値する提言ですが、IT業界以外の多くの企業では、現実は手書き推奨です。

   問題は、この手書き廃止という理想論に同調してしまう就活生です。

   履歴書手書きに限らず、採用担当者に名刺をねだる、フィードバックを求める、など理想論を求めすぎる学生は、就活で失敗しやすい傾向にあります。

   採用担当者の方から名刺を渡す場合もあるし、求められれば渡す人もいますし、面接後に面接内容についてフィードバックする企業もあります。

   こうしたことがすべての企業で実施されれば、それはそれでいいことだ、とは私も思います。

   しかし、現実はそうではありません。

   PC作成推奨派からすれば、保守的で必然性がない、と見える手書きも、推奨する企業は必然性があるから実施しているわけです。

   この必然性を見ずに理想論が先行しても、受け入れられるわけがありません。まして、学生の側がいくら求めても、

「手書きが面倒で楽をしたいからだけでしょ?」

と言われるだけです。それでも理想論を振り回したところで、それは押し付けになるだけではないでしょうか。

実は手書き推奨もPC推奨も同じ?

   私は手書き推奨の企業もPC推奨の企業も、どちらも取材しています。

   その取材結果から、手書きかPC作成か、はっきりしない企業については、手書きがいいよ、と学生にはアドバイスしています。

   実は、手書き推奨の企業も、PC作成推奨(またはオンラインでのみ受け付け)の企業も、根本にあるところは、そう大きくは変わらない、と見ています。

   採用におけるミッションは、自社にとって欲しい学生を必要な数だけ採用することにあります。

   この「自社にとって欲しい学生」像は企業によって異なります。堀江さんも、週刊ダイヤモンド連載で「中身がなければ評価されません」と書かれていますが、この点は、手書き推奨派もPC作成推奨派も、どちらも頷くところでしょう。

   問題は、この中身を見るために、IT業界などは効率重視でPC作成を推奨する、手書き推奨派は、中身をより見ていく目的があるからこそ手書きを推奨する、その方法論の違いではないでしょうか。

   と思うのですが、それでも、とあるIT業界の偉い方に糾弾されてしまうのか、戦々恐々としている今日この頃です。(石渡嶺司)

石渡嶺司(いしわたり・れいじ)
1975年生まれ。東洋大学社会学部卒業。2003年からライター・大学ジャーナリストとして活動、現在に至る。大学のオープンキャンパスには「高校の進路の関係者」、就職・採用関連では「報道関係者」と言い張り出没、小ネタを拾うのが趣味兼仕事。主な著書に『就活のバカヤロー』『就活のコノヤロー』(光文社)、『300円就活 面接編』(角川書店)など多数。
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