「不機嫌な社長」は会社の迷惑 経営者が肝に銘じるべきコト

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   以前同業の企業コンサルタント氏から、彼の知る不動産仲介業者がブラック批判とは無縁の社風で業績を伸ばしている、という話を聞きました。その秘訣をたずねてみると、社長の人柄に尽きるとのこと。機会あらばぜひともお話をうかがいたいと切望していたところ、ひょんなことからそのチャンスに巡り合いました。

   社員50人ほどの不動産仲介業H社。D社長は二代目ですが社長歴20年超のベテラン経営者で、現在60代前半です。同社を訪問し、私はまず業績伸展の原動力になっている担当者数名との面談をお願いしました。

どちらかと言えば厳しくて口うるさい経営者。しかし・・・

ご機嫌ナナメですね
ご機嫌ナナメですね

   女性営業部長のT取締役同席の下、入れ替わり立ち代わり3人の担当者のお話を聞きました。彼らに共通していたのは、誰もが明るく伸び伸びと仕事をしているという印象です。3人が口にしていたことを総合すると、「社長の人柄が素晴らしく、この方と一緒にがんばっていきたいと思わせられることが、高い目標に対する達成意欲の原点」とのことでした。社長の人望と求心力を感じさせるに十分すぎるお話が聞けました。

   引き続きいよいよD社長との面談。社長は初老紳士の風情をただよわせながら、表情は穏やかな笑顔に満ちて第一印象からして本当に優しそうな経営者でした。「社長さんは優しそうな方ですね」と私が言うと、同席のT部長が横から間髪いれずに、「とんでもない。社長は本当に厳しい方で、業績目標達成に関しては優しさなんてこれっぽちもないですよ」と、笑みを浮かべながらではありながらもキッパリと否定されました。

   それに応えるように社長は、

「そうですね、僕はどちらかと言えば厳しくて口うるさい経営者です。みんなが黙って一生懸命ついてきてくれるから、なんとかやってこられているだけですよ」

   厳しくとも皆が黙ってついてくる、その秘訣は何なのか。ここはストレートにT部長に質問をぶつけてみました。

「T部長から見て、社長の社内求心力はどこから生まれてきていると思いますか?言いかえれば、T部長御自身は社長のどのような部分に尊敬の念を一番感じているのですか?」

   T部長はにっこり笑うとこう答えました。

「安心感ですね」

   安心感?なんとも抽象的な単語表現で返されましたので、さらに質問を続けます。

「どんな時に感じる、どのような安心感ですか?」
「いつも感じる『いつでも変わらない』というどっしりした安定感、とでも言うのでしょうか」

アジアのさる島国の村落で会った村長から学んだコト

   そんな禅問答のようなやりとりをニコニコと笑みを浮かべながら聞いていたD社長が、助け舟を出してくれました。

「僕はね、ひとつだけずっと心掛けていることがあります。それは、機嫌を職場に持ち込まないということ。僕は本当は気の短い男なのですが、特に上に立つ者が悪い機嫌を職場に持ち込んじゃいかんと思っているのです。これは若かりし頃に出会った、心の師の教えです」

   D社長は先代の急逝により思いがけないタイミングで社長になり、当初は何より自分自身が落ち着かない状況下でした。就任から1、2年の間に会社もよりどころを失い、迷走状態に陥ったそうです。どう会社を引っ張っていいものか悩んでいたその時、心配した冒険好きの友達に旅行へ連れ出されました。「全てを忘れて気分転換せよ」というわけです。行先は、アジアのさる島国の村落。そこで偶然出会った村長さんに、リーダーとして心打たれるものがあったのだと。

   村長さんは、とにかく穏やかですべての村民から慕われていました。社長は村を離れる際に「村長さんはなぜ、そんなにいつも穏やかなのですか」と質問をすると、「私も人間だから機嫌がいい時も悪い時もある。でも私が少しでも機嫌を損ね、それが態度に出れば皆が私に気を遣う。人の上に立つと言うことは、それだけ注目をされると言うこと。注目をされる人は、余計な負担や迷いを皆に強いてはいけない。それは村にとって最も無駄なことだ」と答えてくれたそうです。

管理者の不機嫌は、組織の不機嫌になる

   この言葉を聞いてD社長は目から鱗が落ちる思いだったのだそうです。どうしていいか分からずに毎日イライラして当たり散らしたりふさぎこんだりしていた自分が、いかに周囲に無駄な労力を使わせたかを思い知らされたのでした。

「社長のご機嫌はOKだけど、不機嫌はアウトなのですよ。僕は村長の話を聞いて本当に恥ずかしい思いで一杯でした」

   帰国後社長は、どんなに気分が悪くとも、どんなに自分が悩んでいようとも、絶対社内では態度に出さない、顔にも出さない、そう決めて行動を徹底。あの島の皆が協力し合う素晴らしい雰囲気を目標にしました。すると、不思議なくらいに社内は安定してムードが良くなり、皆が前向きに仕事をしてくれるようになって業績がどんどん上がったのだそうです。

   リーダーは自分が思っている以上に下から注目されていると意識せよ、とは私も30代ではじめて管理職になった時に研修で言われたことですが、注目されるからこそ影響力も大きいのです。D社長のお話に「管理者の不機嫌は、組織の不機嫌になる」は、多くの経営者が今一度肝に銘じるべき真理ではないかと改めて思った次第です。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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