最近よく、労働基準法や労働者派遣法の改正案が今国会に提出予定、などと報じられ、話題にのぼることが多くなっています。私の印象では、おそらく今年は、労働者にとって大きな転機の年になるのではないでしょうか?
今回は、こうした流れも踏まえ、派遣社員が起こしたミスで会社に不利益が出てしまったエピソードをもとに、「派遣の損害賠償責任」について考えていきます。(実際の事例を一部変更しています)
営業部に電話を繋げず、契約に影響
弊社にはコールセンターがあり、すべて派遣社員で対応しています。
お客様からのクレームを対応している部署で、みんなとても良く働いてくれているのですが、あるとき電話対応で大きなミスがありました。
ある取引先の会社が間違えて、コールセンターへ電話をしてしまったようで、さらに対応したスタッフが不慣れだったこともあり、営業部に繋げずに終わらせてしまいました。
お客様のクレームを対応している部署ですので、直接社内の部署に繋ぐことは稀なのですが、その様な事が起こっても問題ないように、繋ぎ方は研修で教えています。
ただ、実際にかかってきた時に焦ってしまい、対応できなかったみたいです。
その後、「折り返しを頼んだのに連絡が来ない!」と、取引先が怒っていると営業部から連絡が来ました。「もう契約はなしだ!」とも言っているとのことでした。
派遣社員に確認したところ、その後すぐに別の電話が鳴った為、対応を忘れていたそうです。
もし、この取引先との契約が本当に無くなってしまった場合、正社員であれば会社の責任となりますが、今回は派遣社員なので、その損害賠償を派遣会社に請求することはできるのでしょうか?
弁護士解説 労働者派遣契約の内容確認を
小さなミスが思わぬ大問題を引き起こすことってありますよね。今回は、一本の電話を適切につながなかったため、会社に損害が生じようとしています。しかも、問題を起こしたのが派遣社員であれば、派遣会社に損害を賠償してもらいたいと思う会社もあるのではないでしょうか。
派遣先が派遣会社に損害賠償請求できるかどうかは、派遣先と派遣会社との労働者派遣契約の内容によるところが大きいです。そして、派遣労働者の違法行為について派遣会社の損害賠償責任が記載されているような場合には、派遣会社が責任を負う可能性があります。
過去の裁判例でも、派遣会社への責任が認められたものがあります。
例えば、派遣会社の社員が派遣先の会社のお金を横領したパソナ事件(東京地判 1996年6月24日)では、派遣会社の責任が認められました。
ただし、派遣先の管理が不十分であったような場合は、過失相殺といって、派遣会社が負う損害賠償責任が少なくなります。
派遣労働者が派遣先で業務上の文書を偽造したテンプロス・ベルシステム24事件(東京地判 2003年10月22日)では、裁判所は派遣会社の責任を認めたものの、派遣先にも相当な不注意があったとして、派遣会社の賠償額は減額されました。
今回のご相談は、コールセンターへ電話をした取引先を、派遣社員が営業部に繋がずに終わらせてしまい、取引先が怒り、取引がなくなりそうとのことです。
派遣社員が派遣業務に関しておこしたミスですので、労働者派遣契約の条項次第で、派遣会社の責任を追及できる可能性があります。派遣会社がいい加減な労務管理をしていれば、なおさら派遣会社の責任が認められやすいでしょう。しかし一方で、派遣先での電話研修がしっかりと行われていないという事実があった場合は、派遣先にも責任が認められて派遣会社の賠償額が減額される可能性も出てきてしまいます。
労働者派遣契約において、派遣会社に請求できる条件・範囲などを明確にしておけば、有事の際に損害賠償を請求しやすくなりますので、一度契約書を確認してみてもいいかもしれませんね。
(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)
ポイントを2点にまとめると、
1:派遣労働者の違法行為について派遣会社の損害賠償責任が記載されているような場合には、派遣会社が責任を負う可能性がある。
2:派遣先の管理が不十分だったなど、派遣先にも責任があると認められた場合は、派遣会社への賠償額が減額される可能性がある。