選考書類が日本一「長い」企業と「短い」企業 それぞれの「なるほど」な理由

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   電子書籍の『300円就活 準備編』がぼちぼちの石渡です。間もなく、『300円就活 面接編』(2015年3月14日予定)も刊行しますのでよろしくです。

   今日のテーマは「選考書類の日本一」です。

   選考書類は、1980年代までは履歴書が中心。1990年代以降、履歴書よりも質問項目を企業ごとに設定しているエントリーシートが主流になっています。

   もちろん、履歴書のみを提出させる企業もありますが、こうした選考書類をどう書くか、学生はあれこれ悩むことになります。

   それでは、日本一長い企業と日本一短い企業は、それぞれどんな企業か、調べてみました。

何て書けばいいかな?
何て書けばいいかな?

   日本一長いのは、ライフネット生命保険です。長い、と言いますか、鬱陶しい、面倒、という方が正しいかもしれません。

   その名も「重い課題」ですが、同社サイトで先日まで公開していた内容をみると、2015年卒は、こんな感じでした。AかBか、選択です。

【問題A】

   国政・地方のいずれの選挙でも、20代の投票率は全世代の中で最も低くなっています。20代が選挙に行かない理由とそのために起きる問題、それに対して20代はどうするべきか、次の設問に従って考えてください。

1:ほかの世代と比較して20代の投票率が低い理由を、データを用いてその背景とともに説明してください。

2:20代の投票率が低いために、すでに起きている現象と将来起きうる事象について説明して下さい。

3:投票しない理由として「選挙に行ってもどうせ自分たちの意見は反映されない」という声があります。では、20代の意見を政治に反映させるためにはどうしたらよいでしょうか。解決策を3つ考えて提案してください。なお、予算・法令・制度などの制限はすべて取り払って考えてかまいません。

【問題B】

   現在の小学校1年生が大学を卒業して就職する頃には、65%の人が今は存在していない仕事に就くという調査があります。現在から20年後の社会と仕事の変化について、予想してください。

1:20年前から現在にかけてもっとも成長した産業ともっとも衰退した産業について、データを用いてその背景とともに説明してください。

2:20年後の未来に、現在と比較して大きく変化している社会・産業の状況を予想し、理由とともに説明してください。

3:2で予想した変化に伴い、20年後には、現在存在しないどんな仕事が新たに生まれているでしょうか。新たな仕事を1つ挙げ、その仕事が生まれる背景と、その仕事に就くにはどのような能力が必要か予想して説明してください。

※20年前は1990年とし、20年後は2030年とします

※どちらの問題もA4で枚数・形式は自由

エントリーから提出者1%激減でもいい理由

   同社サイトによると、エントリー数は8741人。

   で、この「重い課題」提出が70人。提出率は1%未満です。

   ライフネット生命保険マーケティング部の関谷誠さんによると、この「重い課題」を始めたのは新卒採用を始めた2011年度卒から。例年、エントリー数から提出者が1%未満に激減するのは織り込み済み。2015年卒の提出者数70人はむしろ多い方とのこと。

   「もちろん、正解があるわけではありません。必要な資料を探して、どこまで論理的にまとめているか、考える力などを見ていきます」(関谷さん)

   同社の採用者数は例年1人か2人程度。それくらいであれば、学生がまとめた「重い課題」もじっくり読み込むことができます。

   「学生の本気度もわかりますし、『重い課題』を読み込む採用チームも7人います。これでこちらも本気で読み込みます」(関谷さん)

石渡嶺司が全力で逃げたい件

   本来の採用担当者は1人ですが、「重い課題」はじっくり向き合うために、7人チームを作るあたり、ライフネット生命保険の本気が分かります。

   「ところで石渡さん、あなた、確か去年、うちに取材に来たときに、『課題をいくつかのパターンでまとめるから、添削してくれないか。それを記事にするから』と言っていませんでしたっけ?」(関谷さん)

   ......、確かにそう言いました。が、同社を出た後、その鬱陶しさに気付いて、全力で逃げ回り現在に至る。

「うちはいつでもお待ちしております」

   ネット上で「早くやれ」のリクエストが1000RTを超えない限り、今後も全力で逃げ回る所存です。

日本一短い三幸製菓は、何を書かせる?

   一方、日本一短いエントリーシートを課すのは、三幸製菓。新潟県に本社のある中堅の菓子メーカー。「ぱりんこ」「雪の宿」などのおせんべい、柿の種などが有名です。

   同社は、2013年卒から、新卒採用において、就活ナビサイトの利用を取りやめました。ナビサイト利用を取りやめて、代わりに使っているのが、FacebookとSkype(遠距離就活)です。これは選考方法が最終選考(新潟本社で実施)以外はSkypeによる面接です。

   「出前全員面接会」もユニークです。学生が5人以上集まり、場所を用意できるなら全国どこでも採用担当者が出向いて、その場で実施する、というもの。

   このようにユニークな選考を課している三幸製菓が2016年卒向けの採用ページを3月5日に公開しました。

   その名も「日本一短いES」。まず、画面に2つの質問が出てきます。

「せんべいが好き?」
「ニイガタで働ける?」

   なるほど。この2問にイエスかノーで答えてから、入力に進みます。果たして、その画面にあるものは・・・。

「メールアドレスを心を込めて入力してください」

   なんと!三幸製菓のエントリーシートは、メールアドレスの入力のみ。ほか、名前、大学名などの入力は一切ありません。

   入力すると、メールが送られてきて、「35の質問」から「17のカフェテリアプラン」からいくつかについて案内を送るので学生が選ぶようにする、とのこと。

削りに削れば、メールアドレスだけで十分?

   なぜ、ここまで短いエントリーシートを考えたのか、三幸製菓の杉浦二郎・人事課長にお伺いしました。

「一言でまとめると、ESで必要なものだけを残したら連絡先だけだった、ということです」

   多くの企業が採用しているエントリーシートでは、志望動機、自己PR、学生時代に頑張ったことなどを書かせます。

「基礎学力などはWEBテストを課せば十分です。誰でも書ける志望動機や自己PRをどう書くかで悩み時間を使い、読む方も時間とお金をかける。お互いにバカバカしいだけです。既存のエントリーシートから内容を削っていけば、志望動機や自己PRだけでなく、名前や大学名などの基本情報すら不要です。必要なのは、メールアドレスだけ。あとは、やり取りしていく中で名前・大学名など基本情報は知らせてくれればいいのです」

   なるほど、強烈ですが、中身は正鵠を射ています。

「実はライフネット生命保険さんの『重い課題』もよく知っていますし、採用担当者とも話をしています。課題そのものがアセスメント対象として成立しています。非常に考え抜かれた、素晴らしい取り組みだと思います。」(杉浦さん)

   方向性が違うにしても、それぞれ、長さ・短さで日本一になるとは、これも、ご縁。なんでしょうかねえ。

   両社とも2016年卒の採用は現在、受付中だそうです。(石渡嶺司)

石渡嶺司(いしわたり・れいじ)
1975年生まれ。東洋大学社会学部卒業。2003年からライター・大学ジャーナリストとして活動、現在に至る。大学のオープンキャンパスには「高校の進路の関係者」、就職・採用関連では「報道関係者」と言い張り出没、小ネタを拾うのが趣味兼仕事。主な著書に『就活のバカヤロー』『就活のコノヤロー』(光文社)、『300円就活 面接編』(角川書店)など多数。
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