なぜ「叱る」ではなく「ほめる」なのか
事前に失敗を予測しその言い訳をして、果たしていい結果に結び付くでしょうか。それは土台無理というもの。ならば、事前の言い訳が出る原因を作っていると思しき、失敗時に想定される大きなダメージを軽減してやる必要があるのです。この課長が想定している失敗時の大きなダメージとは何なのでしょう。
D社長は創業者で、見るからにコワモテのいかにもなワンマン経営者タイプ。きっと社長自身がナンバーワン営業マンで、実績の上がらない部下たちを日々厳しく指導しすぎているのではないかと、私はあたりをつけました。そのことが「失敗したらまた社長にドヤされる。それは嫌だ」という社員たちのダメージ回避行動が、事前言い訳につながっているのではないかと思ったのです。
最近の人たちは、我々の時代と違ってちょっとしたことでひどく落ち込み、またトラウマになって精神的に病んでしまうことも間々あるのです。それが、仕事の上でそれまでに経験のない怒られ方をしたことが原因であるというケースもまた、よく耳にする話です。
ならば対応策はどうすればよいのか。簡単なことです。「叱る」を「ほめる」に替えればいいのです。たとえ結果が失敗であってもその過程なり、がんばりなりをほめてあげることです。なぜ「叱る」ではなく「ほめる」なのか。
「ほめる」の効用は、一般的にモチベーションアップばかりが言われていますが、実はそれだけではありません。「叱る」ことは次回に向けて失敗イメージを必要以上に植え付け、「ほめる」ことは逆に次回の成功イメージを描かせるのです。モチベーションアップ以上に大きな効果が「ほめる」にはあるのです。これが本当の「ほめる」の効用なのです。
初対面のD社長に、こちらの推測であまり不躾なことを申し上げるのは気が引けたので、「社員をほめること、してますか」とだけ尋ねてみました。すると、「ほめるような材料なんて何もありゃしないさ」とにべもありません。それでも「ほめる」の効用を聞くと、「社員のいい点を探すことに欠けていたかもしれないな」と話してくれました。できることから少しずつやっていただけたら、きっと変わると思います。(大関暁夫)