プレッシャーは、部下への叱責という形で伝染していく
工場長が感じたプレッシャーは、工場の部下への叱責という形で部門内に伝染していく。新事業部門の部長代理は就任したばかりで、「就任早々工場長には弱音を吐けない」「自分の評価も下げられてしまう」などの不安感が交錯し、粉飾という安易な逃げ道を選択し、具体的な方法は部下である課長に任せた。
課長自身も、課の損益計画未達について工場長から「こんな数字で済むわけないだろう」「なんとかせい」などと一方的に責め立てられることが多く、(何を言っても)工場長は聴く耳を持たないと感じてしまった。そして、複数の担当者に在庫数量の改ざんを指示し、粉飾はエスカレートしていった。
指示を受けた部下たちの中には、不正行為であると認識していた者もいて、「こんなことやって大丈夫ですかと」などと質問したこともあったが、直接の上司から「やるしかない」と言われ、指示に従っていたようだ。
第三者委員会の調査報告書は「聞く耳を持たないと思わせる対応に終始したことが、本件不正に部下が踏み込む動機付け形成の要因となったことは否めない」「理由・原因が分からない損益計画未達の報告でも、まずは聞いて、一緒に分析・対策に取り組むと、部下に思わせる対応・姿勢を示していれば、本件不正行為の阻止・拡大防止ができた余地がある」と指摘している。
「何とかしろ」というだけなら誰でもできる。そう言い放って部下を追いやるようでは、経営者、管理職失格だ。もちろん、甘やかすべきだなどと言うわけではないが、部下に厳しい目標を課したときほど、上司はきめ細かいフォローアップをし、悪いことほどすぐに隠さず報告できる「頼りになる」存在にならなければならない。部下からの報告・相談に「聴く耳をもって」、最終責任は自らがとるという心意気が求められる。
ストレスチェックの義務づけを機に、メンタルヘルスはもちろん、職場風土やモチベーションの向上、さらには不正の防止にも役立てたい。(甘粕潔)