『300円就活』という就活QA集を電子書籍で出した石渡です。文字通り、価格は300円なので就活生や採用関連でご興味ある方はどうぞ。電子書籍は、文字数を少なく、手軽に読めるようにするのが定番ですが、本書は例外。『準備編』(2月28日刊行)は約10万字、『面接編』(3月14日刊行予定)は約15万字。合計420項目・約25万字というかなり鬱陶しい電子書籍です。新書だと2冊分相当。
就活生の素朴な疑問にも全部回答しています。
さて、今回のテーマは「就活序盤の空回り・勘違い」です。
就活生本人は一生懸命なのですが、実は空回り・勘違いしているケースが結構あります。気付かないままだと、就活で苦戦する元なのですが、果たしてどんなものなのでしょうか。
危険度は、石渡の取材結果と主観によるものです。
●説明会参加の企業は業界を絞る
危険度・・・B
評価:「今年の就活は短期決戦なので、説明会に参加する企業は志望業界を決めてから絞った方がいいですか?」との質問をよく受けます。これ、例年も良く出る質問。志望企業・業界が決まっているとしても、説明会参加などは下手に絞らない方が有利に進められます。
学生が知らない企業が実は合っている、ということもありますし、説明会参加によって、その企業だけでなく、志望企業の理解が深まる、ということも。説明会参加を繰り返していくうちに、なんとなく、志望企業・業界が変わり、絞れていく、というのも良くある話。
●営業は絶対に嫌
危険度・・・B
評価:人見知りするタイプに多い話。接客や訪問販売などの企業・職種であれば、人見知りするタイプは苦戦するでしょう。それを見越して敬遠するのは、ある意味で正解です。
ただし、営業と言っても、顧客が決まっていて、その中で調整・提案していく営業もあります。それに、文系学生のほとんどと理系学生であってもその多くは営業要員としての採用です。営業が嫌、と決め付けて志望企業・職種を限定すると、それだけチャンスが減るわけで、あまり得策とは言えません。
人見知りするタイプでも、営業として活躍できる余地はありますし、そうしたタイプの方が営業で好成績を収めている、という企業もいくらでもあります。
●人と接することが好きだから××業界
危険度・・・A
評価:営業嫌いの逆ですが、これも危険。そもそも論として、あらゆる業界・職種は人と接するのが当たり前なんですね。
航空・観光・アパレルなどの業界に多数出現する勘違いですが、意外なところでは、パチンコ業界。
この業界、採用難である割に、採用予算が潤沢であるところがポイント。合同説明会の参加も積極的ですし、採用動画などの展開もかなりお金をかけています。で、その気になった学生も出てくるのですが、ここで他の業界・企業の説明会に参加したかどうかで大きく分かれてきます。積極的な学生なら、色々見て回る中で「人と接する仕事はいくらでもある」と考えていきます。
ところが、消極的な学生は、パチンコ業界の説明会だけで満足し、「これこそ、目指す企業」と思い込んでしまいます。
こういう学生を生み出すパチンコ業界の採用戦略も罪作りですが、やはり、最大の問題は学生の勘違いです。
しかも、こうした勘違い学生がパチンコ業界にとって欲しい学生か、と言えばそうでもありません。人不足のはずのパチンコ業界ですら、敬遠してしまう学生が多く、結果、大苦戦してしまう、というケースがそこそこあります。
●縁の下の力持ちタイプだから一般職
危険度・・・B
評価:女子学生、特に女子大に多い勘違い。総合職でも、営業以外の部署(人事、総務、経理など)はあるし、営業でも、企業のビジネスそのものが「縁の下の力持ち」ということも。
女子学生は勘違いしやすく、「一般職の方が仕事は楽だし、就活も簡単そう」ということも。女子学生の就職状況を好転させているのは総合職採用の拡大であって、一般職採用は全体では縮小傾向。しかも、難関大の学生も結構受けるのでさらに狭き門です。
●就活はゆっくりでいい
危険度・・・AA
評価:今年(2016年卒)は、そんな悠長なことを言っていられません。さっさと行動するように。行動とは、説明会参加などです。
後ろ倒しについては、本連載の第2回、第17回などでも触れていますが、ほとんどの企業は守りません(守るわけがない)。
さらに、大学教員からは、
「就活後ろ倒しの趣旨を分かっていない企業が多くて困る」
などの意見もあります。が、大学教員が困るかどうか、ではなく、現実に、動いている以上、学生は早めに動かないとかわいそうですねよ、という話です。
上西充子・法政大教授は、Yahoo!個人の記事「就職・採用活動は一律のスケジュールでは進まない現実を踏まえて、冷静な対応を」で、学生に対して「むやみに焦るのは禁物」としています。
中小企業の動きが変わる
この記事、趣旨自体はわかるのですが、その論拠として、
「スケジュール変更はあるものの、大きな傾向は変わらないものと思われる。ここで言う大きな傾向とは、 (1)上位大学の学生の方が、早い時期に内定を得やすい(2)都心部と地方では、都心部の企業の方が、採用活動が先行する傾向がある (3)大手企業の内定出しのあとに、中堅・中小企業の採用活動が本格化する傾向がある」
と述べています。1・2はともかく、3は2015卒までの傾向で、2016卒は当てはまりません。
例年であれば、大手企業が4年5~6月ごろに内定を出したあと、中小企業が動き出していました。これだと、学生も集まりやすく、内定(正確には内々定)を出した後でも、入社まで半年以上、空きます。その間、余裕をもって、内定者研修などを進めることができます。
ところが、今年の2016卒はそうはいきません。仮に大手企業の内定が出そろう(と公式にはなっている)4年8~9月まで待った後に採用活動を進めるとしましょう。そうなると、内定出しが10月以降。ここから、内定者研修などを進めようにも、かなりタイトなスケジュールになってしまいます。
大量の内定辞退が出るのを覚悟のうえで
そこで中小企業は、大量の内定辞退が出るのを覚悟のうえで例年とほぼ同じか、若干遅い程度のスケジュール(選考開始が3~5月、内定出しが6~7月)で推移しています。リクルートキャリアの「就職白書2015」によると、1184社回答の調査で、2016卒について、「内定辞退者数が増えると思う」と回答した社は58.4%にものぼっています。
上西教授の、
「焦ってバタバタと就活に走り回って、疲れてしまい、『内定を出してくれる企業ならどこでも良いから、早く結果を得て解放されたい』という気持ちになるとしたら、それは避けるべき事態だろう。」
との意見には賛成です。が、今年の採用状況を把握しないまま、「焦りは禁物」としてしまうのは、やや違和感を覚える、と言わざるを得ません。(石渡嶺司)