「温故知新」の精神
親子経営者は、親子関係であるが故に他人同士とは異なり、なぜか経営者としてのコミュニケーションが不足するのです。先代は見て学べと無言の圧力をかけ、後継は先代を敵視しそれとは違うやり方で自己を顕示したがる。そんなおかしな流れ故に、身内への経営トップの座の承継がなぜか難しくなってしまうケースは間々目にするところです。
それから3年、K会長は創業50周年を見届けて亡くなりました。葬儀では、喪主を務めたY社長の挨拶に胸を打たれました。
「私は勝手に経営者としての父をライバル視し、病に倒れるまで父に学ぶ姿勢はありませんでした。しかし病床の父とたくさん話をして、事業継続に必要なことは父と子が協力して作り上げる『温故知新』の精神であると理解しました。会長、ありがとうございました」
「故きを温ねて、新しきを知る」。新旧どちらが欠けても事業承継はうまくないのです。同族企業の事業承継になくてはならないものを実感させられた、見事なご挨拶でした。以来、父子の事業承継前の経営者としての緊密なコミュニケーションこそが、帝王学と言われる後継教育そのものなのだと私は思っています。(大関暁夫)