突然、会長が病に倒れる
会長は追い込まれ悩みました。なぜ息子が本業を大切にせずに事業分野の拡大に走ってしまったのだろうか、若社長の求心力はもはやゼロに等しいのではないか。さらには副社長に社長の座を明け渡したら息子は二度と社長には返り咲けないのではないか、いやもしかすると副社長に会社ごと乗っ取られるかもしれない。そうかと言って副社長の要望を飲まなければ、副社長一派が反旗を翻し会社運営そのものが危機的状況になるのではないか・・・
そんな悩み事が重たくのしかかってしまったからなのでしょう。会長は突然、病に倒れてしまいます。一時は生命も危ぶまれる重病でした。なんとか一命を取り止めたものの現場復帰はもはや望むべくもなく、長期療養が必要な状況になってしまったのです。
社内はしばらく混乱が続きました。一時期はこのまま崩壊かと思われたものの次第に落ち着きを取り戻し、創業者不在の状況下でY若社長を中心に団結して窮地を乗り切ろうというムードが高まっていったのです。J副社長もこの流れを察知し、「番頭さん」としての本来の役割に戻っての協力姿勢に転じたと言います。一体、何が起きたのでしょうか。
後に副社長はこう話していました。「会長が倒れられて、若社長は変わられた」と。お見舞いにうかがった際に、そのあたりのいきさつを会長からうかがうことができました。 「私が倒れて入院すると、Yは毎日のように見舞いに来てくれました。そして『あれを教えてくれ』『これはどう考えたらいいのか』と尋ねてくる。私も毎日1時間ぐらいずつ、がんばって一生懸命話をしました。2、3か月も続けるうちに当社の魂を伝えきれたような気がして、むしろ倒れて良かったかなと。もっと早くにやるべきだったと、反省もしました」