「おじさんサラリーマンの街」として知られていた、東京・新橋や、横浜市の野毛(のげ)地区で、若い女性が増えているそうです。2015年2月6日付の「日経MJ」によると、新橋は以前、メーカーなど男性中心の会社が多かったのですが、汐留の再開発で、2003年頃から「電通」や「資生堂」などが進出。この3~4年で、お店の顧客の3割を、女性が占めるまでになったそうです。今回は、このニュースと、女性向け商品の『マーケティングの失敗例』の典型である、「ダサピンク現象」について、考えたいと思います。
「女性向けメニューを意識していないのに、女性客が増えた」
記事によると、新橋が若い女子たちを惹きつけている理由のひとつは、「コスパの良さ」。サラリーマンがお小遣いで楽しめるよう、多彩なメニューを安価に提供しているお店が多いので、「お得!」と感じる女子が多いそうです。予約なしにフラっと立ち寄れる気軽さも、忙しい女子にはピッタリ。チェーン店ではない個性的なお店で、「店主やほかの客とのたわいない会話」を楽しむことが、忙しい女子にとっての「息抜き」になることもあるようです。
かつて「おじさんの街」だった新橋エリアに女性が増えたのは、店主たちが「女子会メニュー」や、「女性向けのお店づくり」を頑張ったからではありません。若い女性たちが、「おじさん向けのお店って、コスパもいいし個性的だし、ネタになる!」と気づき、女性の方から『勝手に』、おじさんの街へ進出してきたのです。これと対極にあるのが、若い女性に売らんがために、可愛らしいデザインを追求した結果、結果的に「なんか微妙」と思われてしまう、「ダサピンク現象」です。
「ダサピンク現象」とは何か
「ダサピンク現象」とは、2013年頃から、ツイッターでたびたび耳にするようになった言葉です。名付け親であるというブロガー、yuhka-uno氏による記事、「残念な女性向け商品が作られてしまう『ダサピンク現象』について」(2014年11月23日)によると、「ダサピンク現象」とは、「決して『ピンク=ダサイ』という意味ではなくて、『女性ってピンクが好きなんでしょ?』『女性ってかわいいのが好きなんでしょ?』『女性って恋愛要素入ってるのが好きなんでしょ?』という認識で作られたものの出来が残念な結果になる現象のこと」。
確かに、家電製品やスマホでも、「女性向け」として作られたものの多くは、ピンク色をしています。そういうデザインが、可愛くないこともないのですが、多くの女子は「もうちょっと上品さが欲しいなぁ」とか、「派手すぎ」と感じ、結果的に、あまり売れないことも、しばしばです。企画する人たちは、「若い女性=ピンクでキラキラしたものが好きに違いない」と考えているのでしょうが、女子たちは何も、分かりやすい「女の子向け商品」ばかりを好むわけではありません。必ずしも「可愛らしい」見た目ではない「ダイソンの掃除機」や、シンプルな「無印良品」、IKEAのソファなどが、女性にヒットしていることを考えると、「女性=可愛いもの好き」の公式が、必ずしも有効でないことは明らかです。
もちろん「可愛いもの好き」な女性もいますが、そういう女性たちだって、毎日、お姫様のようなモノやサービスに囲まれて生活したいと思っているわけでは、ないでしょう。新橋という「おじさんの街」で、個性的なお店を見つけて楽しむ時だって、あるのです。こうしてみると、鼻息荒く「女性向け」として売り出したもののヒットしなかった理由が、何となく分かる気がします。女性向け商品をヒットさせるためには、「可愛いモノ、サービス、デザインが好きなんだろう」という先入観を、まずは『捨てる』必要があるのかもしれません。(北条かや)