就活で「勝てる」オタクと「勝てない」オタク

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   2016年卒マイナビライフスタイル調査によると、36.4%が自身をオタクと考えているそうです(2015年2月3日公表)。

   鉄道、アイドル、漫画など、世には様々なオタク趣味があります。では、就活でオタクは損か得か。それが今回のテーマです。

「盛る」に手を出しても、面接者側は理解不能

鉄道オタクですが、何か?
鉄道オタクですが、何か?

   就活マニュアル本を開くと、大体はすごい学生の話ばかりです。スポーツ大会で優勝した、とか、アルバイトの販売コンテストで上位に入った、とか。

   そんなもの、普通の学生にはありません。そこで、「盛る」という方向に走ってしまうことは以前にご紹介しました。

   この、「盛る」にオタク学生が手を出すとどうなるでしょうか。エントリーシートの自己PRを見ていきましょう。

「私は同人誌が趣味で、即売会では毎回500冊を販売する大手サークルを運営しています」

   オタク学生は、自分の趣味(この場合は漫画・同人誌制作)を生かしつつ、いい自己PRが書けた、と思い込んでいます。

   ところが、この自己PR、落ちる可能性が高いです。仮に通っても、面接でボロボロになるはず。

   では、企業側はこうしたオタク趣味の自己PRをどう見るのでしょうか。「理解不能」「趣味への誤解」「本業不熱心・転職リスク」、この3点を先に考えてしまうようです。

   まず、1点目の「理解不能」。先の例だと「即売会で500冊販売」、これが検証不可能である上に、すごい話かどうか、理解できる社会人はそれほど多くありません。仮に同人誌即売会の名前、コミックマーケット(コミケ)、コミティア、コミックシティ、ガタケットなどを出していても同じ。「たくさん売れているんだ、へえ」くらいで終わりです。

「趣味中心ですぐ転職しそう」

   2点目の「趣味への誤解」もよくあります。たとえば、同人誌即売会だとコミケは年2回の大きな会ということもあり、ニュースなどでもよく取り上げられます。それもあって、一般認知度も高くなってきました。が、これを出しても、面接では、

「コミケって、あのお台場の?コスプレとかするやつでしょ?君もコスプレとかするわけ?」

などと聞かれます。東京ビッグサイトはお台場ではなく有明で、コスプレをするのはごく一部で・・・、などと思っても詮無い話。

   仮に1・2点目のような誤解・無理解がなく、オタク趣味への理解があったとしましょう。その場合、3点目の「本業不熱心・転職リスク」が出てしまいます。

   同人誌の例だと、コミケ以外の即売会で毎回500冊近く売れるのは確かに大手サークルですし、大したものです。そのことを理解している採用担当者は、

「なんか数年で漫画家などに転職するんじゃないのか」

と考えるか、

「同人誌が楽しいなら、それが中心になって仕事はちゃんとしないのではないか」

と考えてしまいます。これは同人誌以外のオタク趣味でもすべて同じと考えてよいでしょう。

面接で「趣味の中身」を話しても理解されない?

   面接においても、オタク趣味の中身を一生懸命話しても理解されない、ということがよくあります。

   以前、PHP研究所から就活マンガ『就活のバカタレ!』の原作・原案を出したとき、メインの作品となったのが高世えり子さんでした(高世さんの作品は、原案も高世さんのオリジナル)。

   日本女子大出身で在学中から同人誌活動をしていた高世さんは、自己PRを「自費出版(同人誌活動)」で押し通しました。結果は苦戦。

   高世さんは結局、自己PRを変えないまま就活を進めて、内定を得ます(2社)。ただ、漫画の中ではこう振り返っています。

「面接官が『同人誌』の実態を知らない限りあんまりステキな印象を持ってくれなかったんじゃないかと思う・・・。自己PRは面接官に『わかってもらう』を目標にした方がいいですヨ」

オタク趣味でも、内定は出る?

   オタク趣味と就活について、ここまで否定的な話をご紹介してきました。

   では、オタク趣味は就活ではタブーなのでしょうか?

   実はそんなことはありません。自己PRでも面接でも、オタク趣味の話をして、内定につながった例はいくらでもあります。

   どうして、同じオタク趣味でも、内定・未内定の違いが出てしまうのでしょうか。

   それは、オタク趣味の中身・魅力を強調したのか、行動力など特性を強調したのか、この違いにあります。

   オタク趣味は、一般人には理解されにくいからこそのオタク趣味であり、それをエントリーシートや面接で強調しても理解されません。しかし、行動力などの特性を話したらどうでしょうか?

   たとえば、同人誌なら、500冊、いや50冊でも販売していれば、

・行列ができたとき、どうさばくか
・話の長い客が来たらどうあしらうのか
・暇な時間はどうする?

などは考えるはず。それから、同人誌そのものも、自分の好きなことを書くから同人誌なんですが、そこそこ売れるようになると、読みやすさや構成なども考えて作っていることでしょう。

   そういう話を書いていけば、わざわざ「私には豊かな発想力があります」と書かなくても、

「読みやすい出版物を作ることに慣れているなら、書類作りなども任せられそうかな」
「面倒な客にも対応慣れしているなら、接客にも向いているかな」

などと採用担当者は考えます。

   これは他のオタク趣味でも同じです。

   そして、面接でも、同じで、オタク趣味の素晴らしさよりは、行動力など特性を話すか、「趣味は趣味、仕事は仕事でそれぞれ割り切って進めます」と話せば、納得感も違うはず。

鉄道会社にとっての鉄道オタク

   オタク趣味と言えば、オタク趣味につながる企業を受ける学生もいます。そこでよく言われるのが、

「鉄道研究会出身者は鉄道会社には受からない」

   これはかなりの確率で当たっています。なぜか、と言えば、オタク趣味以外の分野も仕事だからです。

   鉄道会社の場合、日本だと鉄道事業だけではありません。バス、不動産、ホテル、観光、流通など他の事業も手掛けています。

   鉄道会社からすれば、鉄道事業だけでなく、他の事業部門に異動しても活躍してくれそうな学生を採用したいのですが、鉄道研究会・鉄道オタクはこの条件から外れますよね?

   しかも、鉄道オタクが内定し、仮に鉄道事業に配属になったとしましょう。趣味と同じ仕事ができて幸せかもしれませんが、鉄道オタクからは評価の高い車両をスクラップする、人気の高いローカル線を廃止する、利用頻度の高い割引きっぷを廃止する、なども仕事となる可能性があります。そうした厳しい決断を下せるでしょうか?

   もちろん、その企業の製品やサービスが好きであることは悪いことではありません。

   ただ、そこから、ビジネスのできる人材だろう、と企業が考えないと採用されません。そのあたりが鉄道オタクであれ、他のオタクであれ、趣味に通じる企業からすれば敬遠する傾向があります。

   オタク趣味だからと言って、落ちるわけではないですが、こうした事情を理解していれば就活で苦戦しなくても済むはずです。(石渡嶺司)

石渡嶺司(いしわたり・れいじ)
1975年生まれ。東洋大学社会学部卒業。2003年からライター・大学ジャーナリストとして活動、現在に至る。大学のオープンキャンパスには「高校の進路の関係者」、就職・採用関連では「報道関係者」と言い張り出没、小ネタを拾うのが趣味兼仕事。主な著書に『就活のバカヤロー』『就活のコノヤロー』(光文社)、『300円就活 面接編』(角川書店)など多数。
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