「不要な残業で給与底上げ」社員への復讐 「ボーナス減額で調整してやる」!?

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   先般、残業に関する社長と社員の考え方の違いを取り上げたところ、多くの知り合いからそれに関するご意見をいただきました。一番多かったのは、中小企業の社長方から寄せられた、仕事が遅い担当者の無駄残業を全面禁止したいという社長への賛同意見。代表例は、中小企業のオーナー社長からいただいた次のようなものです。

   「取り上げられた社長さんの気持ち、よく分かります。日中無駄口をたたいていたり、自分の手際が悪かったりして残業になっているのに、あたり前のような顔をして残業手当を請求してくるのは本当に腹立たしい。『自分が原因で残業になるなら、残業をつけるな』とか、『終わらないなら家でやれ』とか言いたいところですが、そんなこと言おうものなら今どきはすぐに『ブラックだ!』とか騒がれちゃうから、本当にやりにくい。困っている経営者はたくさんいると思います」

社長と社員の意識の深い溝

「自分の財布」意識が生むシビアさ
「自分の財布」意識が生むシビアさ

   中には次のような、過激な解決策を示してくれた経営者もいます。

「遅くまで職場にいたり休日出勤したりして、残業代を稼いで給与の底上げをはかる残業社員は見ていればすぐ分かります。そういう社員は半期ごとの賞与で、その分をマイナスにすることを検討中です。仮に毎月約3万円の残業代を支払っているなら、賞与支給額から<勤怠査定>として6か月分でマイナス18万円。納得しない社員は辞めていくでしょうが、会社から残業代をかすめ取ろうとしているようなものですから、それもやむなしです」

   個人的にはこのやり方は行き過ぎの感が強いと思うのですが、「こんな話もあります」と他の社長方に話してみると、「妙案ですね」「参考にします」などと、皆さん比較的好意的に受け止めていました。社長から見た社員が生み出す不要な支出に対する嫌悪感の強さを物語っています。

   一方、社員の立場からこれらの社長方の感覚に対する意見を聞いてみようと、別の中小オーナー企業社員たちに質問を向けてみたのですが、真っ向から対立する意見が出されました。

「悪意を持って残業代を稼ぐなんて言うのは、ごく一部の例外」
「仮に仕事が遅いという理由でも、残業になるなら残業手当を請求するのは当然の権利」
「無駄な残業をさせたくないなら、させないような仕事の割り振りなり管理をしっかりすればいい。管理がザルなのに、残業はけしからんなんて経営者の責任転嫁」

   両者の溝は深いのです。そんな中で社員の一人Hくんが、「中小企業経営者ほど残業手当に神経質じゃないでしょうか」と発言し、続けて興味深いことを口にしました。

「私は最初、大企業に勤めて2年で退職して今の会社に移りました。前の会社でも同じように残業削減は盛んに言われてはいましたが、大企業の管理はもっとあっさりしていたような気がします。何と言いますか、中小企業経営者はこの点での執着心が強すぎる、そんな気がします。社員から見てものすごく違和感を感じます」

「自分の財布から余計なカネが出ていく」感覚の有無

   私はこれを聞いて、以前上場企業D社の元社長がされたある話を思い出しました。

「サラリーマン社長とオーナー社長とでは、ものの考え方が随分違うものです。私は上場企業でありながらオーナー企業でもある会長の下で働いて、それを実感しました。例えば経費削減ひとつをとっても、私が削減の大号令を掛けても会長からは『もっと気持ちを入れて徹底しろ』とそのたび厳しいご指導が入りました。一生懸命旗振りしたのですが、いくらやってもオーナーとの温度差は埋まらない。一番の違いはなんだと思います?私は、自分の財布から余計なカネが出ていくという感覚の有無じゃないかと思いましたね」

   「自分の財布」?

   D社元社長の話を分かりやすく言うと、同社は上場企業でもオーナー企業であるが故に、経費に対してオーナーが「自分の財布から出るカネ」という考え方が強く、シビアになりがちだということです。一方Hくん以前の勤め先は、サラリーマン社長が率いる大企業だったようで、それ故に社長がいくら経費に対してシビアでも「自分の財布から出るカネ」という感覚はなく、そこに大きな違いがあったと言えそうです。

   経費に対する管理のシビアさという点からは、果たしてどちらがいいのかは一概には言えません。しかし、もしオーナー社長経営の会社で、残業手当はじめ経費に関する考え方のシビアさが原因で、社員との間に不協和音が聞こえてしまっているのなら、オーナー社長自身に「会社の出費=自分の財布からの支出」的感覚がありはしないかと、自問自答してみる必要はあるかもしれません。

   「自分の財布から出るカネ」に関しては、誰しもシビアになるのは当然です。しかし、仮に自身が100%出資していても会社は会社、個人は個人。法的には株主であるオーナーの持ちのものであっても、社員や取引先とのバランスの中で経営者は物事の是非を捉えなくてはいけません。残業手当を巡るブラック騒動の根源は、実はそんなところにあるのかもしれないと思わされた次第です。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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