海外在住の日本人の間で「出国税」が話題 海外進出への萎縮効果を懸念

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条件付きで還付や猶予はあるけれど

   問題は、そういう人は、手持ちの株を処分できないということです。未公開株は、買い手がすぐつくわけではないですから、簡単には処分できません。これでは納税するにも大変です。

   かわりに、5年(最大10年)以内に日本に戻ってくる場合は、税金の還付や納税猶予があるという制度になるようですが、要するに税金を人質にとって、10年以内に戻ってくるように脅しているように私には思えます。還付の場合は、いったんは納税するわけですし、納税猶予の場合でも、納税管理人を選定した上で税額相当の担保を差し出す必要があります。

   他にもいろいろと手当はなされているようですが、複雑であり、(対象者であれば)海外で仕事をするだけで、このような手続きを正確にこなさなければならず、ミスすれば脱税に問われるケースも出てくるかもしれません。一旦法律が施行されれば、徴税当局は有無をいわさず杓子定規に適用するでしょう。

   個人的には、このような税制は誰の得にもならないと考えます。例えば、いま日本のベンチャーは果敢に海外を攻めています。中小企業だって、韓国に負けないように、果敢に世界に展開しています。私が住んでいるベトナムに進出してくるのも、ほとんどが中小企業の製造業です。国だって、これを全面的に応援しているはず。

   しかしこのような出国税があると、たとえば、役員がベトナムに(5年超)行って工場を作って展開しようとしたときに、自分たちの経営する会社の売れない株の評価額をもとにした利益に対して課税されてしまうようなことがあれば、とてもではないですが、行く気が起きないのではないでしょうか。経営者や創業者は、海外で陣頭指揮を取ることに萎縮してしまいそうです。

   たしかに、税制の穴を塞いで心情的に不公平と思われることを正すのは、溜飲を下げるにはよいかもしれませんし、取れるところから取りっぱぐれのない内容にしたい徴税側の論理はあるでしょう。しかし、その一方で、その額が具体的にいくらになるのかわかりませんし、それで、何十億円か徴収できたところで、日本の会社の海外進出に対する意欲を削ぐ結果になっては、税金を取り立てる意味がありません。

   私は、海外ですでに暮らしている人をかなりの数知っていますが、彼らは、もう二度と日本国に住民票を入れようと思わないと言っています。入れたら最後、もう一度出る場合に何を課税されるかわからないから、というのです。対象となるのは、転出前の10年以内に5年超住んだ人、ではありますが。

   そういう「海外で暮らしていたような売国奴は二度と日本に戻ってくるな」という極端な意見もありましょう。まさにそういうことが実現しそうであります。(大石哲之)

大石哲之(おおいし・てつゆき)
作家、コンサルタント。1975年東京生まれ、慶応大学卒業後、アクセンチュアを経てネットベンチャーの創業後、現職。株式会社ティンバーラインパートナーズ代表取締役、日本デジタルマネー協会理事、ほか複数の事業に関わる。作家として「コンサル一年目に学ぶこと」「ノマド化する時代」など、著書多数。ビジネス基礎分野のほか、グローバル化と個人の関係や、デジタルマネーと社会改革などの分野で論説を書いている。ベトナム在住。ブログ「大石哲之のノマド研究所」。ツイッター @tyk97
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