海外進出をスムーズにする「ウルトラC」とは

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   インドネシアで独立してウェブのデザインなどの事業をおこなっているかたと先日、お茶をしました。この方の独立のパターンが非常に面白かったので、何かのヒントになればと紹介します。

   この方、仮名で、佐藤さんといたしましょう。

   佐藤さんは、日本のITの会社の社員でした。ウェブのデザインやサイトの構築を請け負う、小規模の会社です。請負などもしつつ、自社事業として、自社サービスも提供していました。

在宅ワークとしての駐在

在宅で・・・
在宅で・・・

   その会社が狙っていたのは、アジア市場。特に、人口の多い、アジアの国がターゲットだったそうです。とりわけ注目は、人口、市場ともに大きなインドネシアです。

   そこで、インドネシアの市場を調べたり、感触をつかむということで、インドネシア法人をつくったりしてスタッフを常駐させて事業を展開・・・というのが普通ですが、実際のところ、大企業でも無い限り、おおきな先行投資はむずかしいのが実情です。

   とはいえ、アジアの市場は可能性を探っておきたい。

   そこで、佐藤さんが提案したのが、「在宅ワークとしての駐在」というウルトラCでした。

   佐藤さんはインドネシアに引っ越す。いきなり市場調査や会社の設立などの仕事を始めるのではなく、まずはインドネシアに馴れて、現地のひとの考え方や消費のしかた、何のゲームをやったり、どういうサービスを使ったりしているのかを、肌で理解するまで1年くらいは現地に住んでみるというものです。

   そして、佐藤さんは、インドネシアにいながら本社からの仕事をうけて、インドネシアで仕事して納品します。要するに在宅ワークです(ノマド社員という言い方をしていましたが、いらぬツッコミをうけないために、在宅ワークとしておきましょう)。佐藤さんの仕事は、ウェブのデザインや開発なので、別に東京にいなくても仕事が可能だったのです。

   会社が佐藤さんのインドネシア駐在にかける追加的なコストは、ゼロです。佐藤さんには引き続き今までと同じ案件をしてもらうので、追加コストはかからず、売上も減りません。佐藤さんとしても、給与は変わらず、仕事も変わらず。住む場所が変わっただけです。

   こうして、佐藤さんは、半年にわたり、インドネシアのひとの消費者の習慣や関心ごとやITの普及度合いなどを体感することになります。現地にいて肌で感じなくてはわからないことばかりを体感して、現地の感覚をつかむのです。

   こういった下準備をしておけば、いきなり海外に進出して、大きく投資して失敗するといった典型的な間違いを犯さずに済みます。

現地の感覚をつかむ

   実はサムスンがこういう手法をつかっています。彼らが駐在員を派遣するときは、一定期間、一切仕事をせずに、現地に徹底的に溶けこむようにさせます。現地で家を借り(時には買って)、現地のひとと同じ生活をさせ、現地の言葉を覚えて、人脈をつくります。

   「地域専門家」という制度です。

   サムスンと同じようなことをするには、多大なコストがかかりますが、佐藤さんの例のように在宅ワーク型で実現すれば、非常に低コストです。

   後日談としては、結局、インドネシア進出は本社側の都合により中止になってしまいました。

   そのかわり、佐藤さんは、会社をやめてインドネシアで独立してしまいました。結果として、佐藤さんは実にスムーズに事業を立ち上げられたといいます。半年のあいだ、在宅ワークをしながら情報収集ができたわけですから。理想的な独立までの期間だったと言えましょう。

   会社としては佐藤さんを失ったわけで痛手になってしまいましたが。

   このような形で、世界中にノマド在宅型の社員を一定期間派遣するという方法で、現地の感覚をつかむという手法は、検討に値するとおもいます。(大石哲之)


   ※プライバシー保護の観点から、記事の趣旨に反しない形で、細かい部分を変更しております。ご承知おきください。

大石哲之(おおいし・てつゆき)
作家、コンサルタント。1975年東京生まれ、慶応大学卒業後、アクセンチュアを経てネットベンチャーの創業後、現職。株式会社ティンバーラインパートナーズ代表取締役、日本デジタルマネー協会理事、ほか複数の事業に関わる。作家として「コンサル一年目に学ぶこと」「ノマド化する時代」など、著書多数。ビジネス基礎分野のほか、グローバル化と個人の関係や、デジタルマネーと社会改革などの分野で論説を書いている。ベトナム在住。ブログ「大石哲之のノマド研究所」。ツイッター @tyk97
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