エースの1人が突然「辞める」と
エースづくりよりも平均を60点以上レベルに押し上げるという、私の営業強化方針を聞いたN社長の意見はこうでした。
「それは、どうだろう。営業部隊は絶対的エースがいてなんぼじゃないのか。エースがいるからそれに引っ張られてチームが強くなるのじゃないのかい。僕がトップ営業として、うちの会社を育ててきたように。エースづくりをさておいて、皆を画一的に底上げしようなんていうのは僕の考えに合わないな」
社長とは営業チーム強化に関する見解がかみ合わず、この話はなかったことになりました。
N社長は結局自らの手で後継づくりをしようと、2人のA評価営業マンとの同行訪問を強化するなど付きっきりで教育し、1年ほどの後には「2人は、エースと言うにふさわしいレベルにまでようやく育ってきた」と話していました。
ところが事件が起きました。エースのうちの1人が突然、「辞める」と言い出したのです。転職です。転職先は大手企業。実績が伸びて仕事がおもしろくなってきた彼は、もっと大きな会社に移って自分の力を試してみたい、もっと待遇の良い会社で働きたい、もっといろいろな可能性のある職場で働きたい、そんなことを思ったのでしょう。
N社長は処遇の改善も含め、必死の引き留め工作に出ましたが時すでに遅し。それどころか、「もう1人のエースまでが刺激を受けて、転職を考えているように思えて仕方ない。ここで彼にまで辞められたら、うちの営業は崩壊する。どうしたらいいものか」と、困り顔で私に相談を持ちかけてこられたのです。
私は、「エースが1人抜けたチームの立て直しと、万が一残るもう1人のエースが抜けても大丈夫なように、今こそ残る営業マンたちの平均を60点以上クラスに押し上げる工夫をしましょう」と改めてお話ししました。