「エース社員重視」の落とし穴 ありがちな人材育成の失敗例

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エースの1人が突然「辞める」と

   エースづくりよりも平均を60点以上レベルに押し上げるという、私の営業強化方針を聞いたN社長の意見はこうでした。

「それは、どうだろう。営業部隊は絶対的エースがいてなんぼじゃないのか。エースがいるからそれに引っ張られてチームが強くなるのじゃないのかい。僕がトップ営業として、うちの会社を育ててきたように。エースづくりをさておいて、皆を画一的に底上げしようなんていうのは僕の考えに合わないな」

   社長とは営業チーム強化に関する見解がかみ合わず、この話はなかったことになりました。

   N社長は結局自らの手で後継づくりをしようと、2人のA評価営業マンとの同行訪問を強化するなど付きっきりで教育し、1年ほどの後には「2人は、エースと言うにふさわしいレベルにまでようやく育ってきた」と話していました。

   ところが事件が起きました。エースのうちの1人が突然、「辞める」と言い出したのです。転職です。転職先は大手企業。実績が伸びて仕事がおもしろくなってきた彼は、もっと大きな会社に移って自分の力を試してみたい、もっと待遇の良い会社で働きたい、もっといろいろな可能性のある職場で働きたい、そんなことを思ったのでしょう。

   N社長は処遇の改善も含め、必死の引き留め工作に出ましたが時すでに遅し。それどころか、「もう1人のエースまでが刺激を受けて、転職を考えているように思えて仕方ない。ここで彼にまで辞められたら、うちの営業は崩壊する。どうしたらいいものか」と、困り顔で私に相談を持ちかけてこられたのです。

   私は、「エースが1人抜けたチームの立て直しと、万が一残るもう1人のエースが抜けても大丈夫なように、今こそ残る営業マンたちの平均を60点以上クラスに押し上げる工夫をしましょう」と改めてお話ししました。

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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