「エース社員重視」の落とし穴 ありがちな人材育成の失敗例

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   先日、営業の講演を依頼され終了後の懇親会席上で、参加の社長さんから質問をいただきました。

「今日の講演の中で、強い営業チームを作るのに平均点80点以上のエースを育てようとするより、極力全員を平均点60点以上の営業マンにすることをめざすのがよいとお話されてました。80点以上のエースを育てる難しさを考えれば、60点以上クラスの社員をそろえる方が楽だということをおっしゃっていると理解したのですが、エースを育てて悪いことは何もないですよね」――

よくある下位切り捨て型の人事方針

エースを育てるか、それとも・・・
エースを育てるか、それとも・・・

   当日の私の話は、例えば5人の営業チームで80点取れる人間が1人いたとしても、残り4人の平均点が50点なら5人の合計は280点。それに対して、80点以上取れる人間がいなくとも5人の平均が65点になるのなら5人の合計は325点になる。その指導の方がエース教育に比べて難しくない。そのためには何をしたらよいか。そのような内容でした。

   もちろん、質問された社長のお気持ちはよく分かります。経営者たるもの、組織が大きくなるにつれ自分が営業の第一線を退くためにはついつい、自分に代わる営業のエースが欲しい、あるいはエース級が既に1人いるならもう1人エース級が欲しい、誰しもそう考えるようです。プロ野球でもそうです。20勝を確実に期待できる投手が1チームに2人いたら、優勝はほぼ決まったようなものですから。しかし、この考え方には思わぬ落とし穴が潜んでいるのです。

   数年前の事です。社内管理体制の整備をお手伝いしていた機械保守サービスD社のN社長から、営業チームの強化を相談されたことがありました。社長のご要望をかいつまんで言うと、現状チーム8人がA評価、B評価、C評価で「2:4:2」の比率になっている状況で、A評価の2人をもっと磨きあげ絶対的エースレベルにすることと、B評価6人のうち最低2人をA評価にランクアップする指導を考えて欲しい、というものでした。

   これは、よくある下位切り捨て型の人事方針です。上位半分を育ててさらなる実力をつけさせて、下位半分との実力差を大きくすることで下位のメンバーを自主的退職に追い込み、下位メンバーの入れ替えにより全体のレベルをアップさせようという考え方。しかしこのやり方、そう簡単に思惑通りにはいきませんし、私の営業強化の考え方はあくまで全体底上げ法なので、基本方針が食い違ってもいました。

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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