2015年も年明け早々、不祥事関連のニュースが流れた。大学病院汚職で、「元部長」が収賄容疑で再逮捕されたというものだった。2014年の企業不祥事動向を振り返ってみても、筆者がインターネット上で情報を集めた限りで、上場企業グループが公表した不祥事は約35件、銀行などの金融機関職員による横領事件もほぼ同数に上る。中小企業などで起きた不正は表に出ないものも多いため、この件数は氷山の一角にすぎないと見るべきだろう。
不正の3類型とは
上場企業グループでは、どのような不正が起きるのだろうか。公認不正検査士協会(ACFE)は、組織内で発生する不正を大きく3つに分類している。
1つめは「資産の不正流用」つまり現金・預金・在庫品・備品などの横領、さらには機密情報の不正利用や売却などである。
2つめの類型は「汚職」で、職権乱用と言い換えられるだろう。仕入先からの賄賂やキックバックの受け取り、過剰な接待、下請けいじめ、会社の利益を犠牲にして個人的な利益を追求する利益相反行為などが該当する。
最後は「不正な財務報告」いわゆる粉飾決算である。収益目標を達成したように見せかける架空売上計上、費用の付替えや先送り、財務状態の悪化を隠すための不良債権や負債の隠ぺいなどが含まれる。
では、ここで問題。これら3つの中で、最も多発しているのはどれか?
厳密な数字は知るすべもないが、例えば、ACFEが2年ごとに会員へのアンケート調査を実施して、米国を中心とした不正事例の動向を分析した最新の調査結果(2014年発表)によると、3類型の中では、「資産の不正流用」が85%と圧倒的に多い。これは、以前の調査でも毎回見られる傾向だ。
次いで汚職(36%)、財務諸表不正(9%)の順となっている(1つの事例で複数の不正が行われることもあるため、合計は100%を超えている)。
2014年の日本の上場企業グループにおける不祥事(筆者調べ、金融機関職員による横領を除く)の内訳をみると、それほど大きな差はないが、はやり資産の不正流用が18件と一番多く、次いで不正な財務報告(13件)、汚職(12件)となっている。
多くの事例が、どこかで聞いたことがあるような内容
ではクイズをもう1問。先の18件の不正流用事件の中で、最大の被害額はいくらか?
A:約5億円
B:約10億円
C: 約15億円
答えは、なんと・・・Cである。その事件は情報・通信関連の上場企業の関連会社で起きたもので、会社が公表した被害総額は15億6000万円に上る。入社以来一貫して経理畑を歩んだ50歳男性(2014年10月逮捕)は、金庫内現金の着服、小切手の二重振出しや不正換金、預金口座からの不正出金・不正送金などのさまざまな手口を駆使して、8年にわたって横領を繰り返した。学生時代はパチンコ、会社に入ってからは競馬やtotoなどにのめり込み、「競馬で勝って元に戻せば」と思いながら深みにはまってしまったようだ。
2014年には、その他にも億単位に上る巨額の横領事件が相次いで公表された。例えば、大手総合商社では、海外子会社で経理を取り仕切っていた社員が、個人的なFX取引で抱え込んだ損失を補てんするために、約2年間で7億円相当を会社の口座から自分の口座に不正送金し続けていた。
こんな事件も起きている。鉄鋼メーカーの子会社で、グループ社員が出張時などに使用する法人クレジットカードの管理を担当していた出向者が、退職者が使用していたカードを解約せずに遊興費などに不正利用し、6年弱で3億円の損失を会社に与えた。クレジットカードの利用明細をシュレッダーにかける姿を上司に見とがめられて不正を自白したそうだ。
残念ながら、2015年も同じようなペースで企業不祥事が公表されるだろう。多くの事例が、どこかで聞いたことがあるような内容だ。「うちの会社に限って」「私の部下に限って」と思ってはいけない。「明日は我が身」と考えて、他社が公表した不正調査報告書を読み込んでみると、今まで見落としていたリスクに気づくことができるかもしれない。(甘粕潔)